涙を吸った枕カバーを洗濯機に入れた。 明けの鳥は軽やかに庭を歩く。つがいだろうか。2、3歩んでは頭を上げて、互いを確認するかのようにあたりを見回す。 その様子を見つめながら、ニールはソファーの上で両膝を抱き、両手でマグカップを包んだ。 カップの中にはーっと息を吐き出すと押し出された湯気が鼻先を温める。甘苦い香りの奥には誰かの姿が浮かぶ。 つがいの鳥は土を啄み、小さく何事かを囀ずったかと思えば、瞬間、あ、と思う間に飛び立った。 送る眼差しが伝わってしまったのだろうか。 また来るといいなと思いながら植物だけになった庭をただ見る。 静かな朝だ。 町には人がいない。 連邦政府の指示により今は世界がシェルターの中へ引っ越している。 きっとこうして家に残っている人間も少なくはないのだろうけれど、軍関係者ばかり住んでいるこの地区は特にがらんとしていた。 今なら通りで何やってもよさそうだなと戯れに考えて、ただただ、いつもの通り、日々をこなす。 いつも通り、次は空になったマグカップをローテーブルに置き去りにして、着替えをする。 畳まれていない洗濯物の丘を少々漁って。 外に出る予定はないからいいかと、とりあえず出てきたキャミソールを被る。 ニールもシェルターに行けと言われた。 わかったよと答えた。 だから今ここにいることはちょっとした裏切りだ。 帰ってきてこのことを知ったら怒るかもしれない。 言いそうな台詞を考えてニールは笑む。 その声を待っている。 かつて幾度世界の終わりが囁かれたかは知れないけれど。いつ終わるとも知れないのはいつものことだ。 だから、まぁ、いいや、とニールは思う。 或いは本当にこれが世界の終わりだとしても、運命を共にできるならそれでいい。 ここにいてここが危ういということはそれはもう彼も危ういということになるだろうから、それならニールはどんなことも覚悟できた。 どのみち出会った時からおれの未来はお前の手の中だよ。なぁ。 着替えを終え手櫛を通し、窓の向こう、空を見上げた。 今日もいつもの青空だ。 早く帰ってこないものかといつものように思うのだ。 脱ぎ捨てたパジャマを拾い上げる。 さぁ、洗濯機を回そう。 私の町に朝が来る [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |