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何もかも面倒臭くなった、とでもいう風にニールは寝室に現れた。

「なぁ、しようぜ」

ベッドの上、上体を起こして座るグラハムを、立ち膝になって跨ぐ。
端末を手にニュースサイトに目を通していたグラハムは、画面を消しながら顔を上げ、それを脇に放った。
照明の白々しい光を背負ってニールはグラハムを見下ろす。
見下ろされるなど本来ならば多少なりとも気に障るはずだというのに、グラハムはニールにだけは無条件に許せた。寧ろ向かう所だとばかりにその顔を仰ぐ。

「姫から来た限り手加減しないが?」
「おれもしないぜ?」

ニールは挑発的に言った。
どちらからともなく唇を重ねる。勝手の分かった風に舌を絡め。
グラハムはニールの腰に片手を回しその身体を引き寄せると、もう片手で尻を掴んだ。率直な誘いに即座に食指が動くのは同じレベルで貪欲だということだろう。張りのある締まった尻を撫で、揉む間に、ニールはシャツを脱ぎ捨てる。赤旗を振る闘牛士よろしく。
白い肌、浮き出た鎖骨の上に栗色の巻き毛が軽やかに乗った。形の良い胸がグラハムの眼前に露わになる。決して豊満ではない、あばらの凹凸がうっすら見えさえする身体に、しかしどうして一目だけで欲情するのか。
ニールは両手でグラハムの顔を包み、ぐいと上向かせ再び口付ける。キスの好きなたちなのだ。今度は啄むように軽く何度も落とす。その度、枝垂れ落ちる髪の柔らかな感触が、グラハムの顔や首のそこここにあらわれる。
解放すると両手をそのまま滑らせ、グラハムの頭を抱き込んだ。ぐいと胸元へ引き寄せる。グラハムは小さく口を開け、誘われるまま淡い色の乳頭を甘く噛む。


主導権といったものは特になかった。その時自分がしたいと思ったことが相手のされたいと思ったことで、欲望を忠実に曝せば全てが水の流れるようにうまくいく。相性がいいとはこういうことなのだろう。


やがて屹立した男根をニールが掴む。グラハムはニールの中から指を抜いた。
視線を憚るということもなく、ニールは手の内にしたそれを見据える。そして満足げに小さく笑った。

「2番目に好きな所だな、お前の、からだ」
「一番は何なのだ」
「顔に決まってんだろ」

何を今さらといった風に吐き捨て。
お気に入りらしいその顔に視線を移し、遠慮なく見つめながら、グラハムと呼ぶ。
見ろ、見てろ、と眼差しが訴えていた。グラハムが意を汲んだ次の瞬間、ニールは息を詰め、ゆっくりと腰を落とす。
沈み込むニールの中は渇きを知らない泉のように潤んで、しかし灼熱を湛えていた。
他人の身体の、それも一回り二回り華奢な身の内によくも収まるものだと他人事のように思うが、はじめからぴったりと合うように創られているのだろう。
至極自然に、底に行き着く。

「気持ちいいか?」
「ああ、姫もだろう」

唾液を嚥下してまたニールは笑う。こうした時に見せる笑い方がグラハムは好きだった。快活で明朗で、婀娜で、獰猛な。
唇の端に笑みを残したままニールは腰を動かし始める。
それは心拍のリズムに似ていた。だから荒々しい欲情の満ちる中でも、どこか落ち着いた気持ちになるのか。吐息を溢し唇を噛んでニールが俯く。長い前髪が垂れ落ち、グラハムは拭うように寄せる。すると上目にニールが見つめる。

「いつもそうする、な」
「私も君の顔が見たい」
「気に入ってんの?」
「ああ、至極」

仕方ねぇな、と言いながらニールは横髪を耳に掛ける。可愛らしいことだと思う。
グラハムはニールの腰に添えていた手を滑らせ、横から腿に触れた。僅かにニールが前のめりになってグラハムの肩にしがみつく。
ニールははっと息を吐いてそのまま行為に専心した。
少しグラハムが視線を下げれば接合部が生々しく目に入る。あまりニールは引き離さずに、小刻みに奥に当てる。時折グラハムが息を詰めると変調して。
ニールはこと性行為に関しては、何をしても稚拙な所がない。出会った時からそうだ。だから以前つい、セックスが好きなのかと問うたら、ニールはあんたとするのは好きだとさらりと答えた。リップサービスなのか本当なのかは知らない。知りようもない。しかし没頭しているのは本当で、信じたいのが独占欲だ。

「グラハム」

潮の引くように動作を止めてニールが呼ぶ。
唾液を嚥下し、こっち見ろよ、と不快とは全く逆の調子で言う。
従順に視線を移せば、そこにあるのは獰猛な顔だった。光る双青は猛禽の目に似ている。普通に生きている人間ができる顔ではない。それを見る度グラハムは堪らなくなるのだった。思わず口角を上げる。

「グラハム、なぁ、好きだよ」
「何がだ」
「ぜんぶ」

わかってるだろ。
ニールはぐいとグラハムの首を引き寄せる。合図だった。そのままグラハムはニールを背後へと倒す。交代だ。
グラハムの返答などニールは大して求めていない。ただグラハムが口付けるとやはり顎を上げて応じる。「ぜんぶ」の言葉が本気なのか可笑しくなるほど、キスを好んでいるのはそういうわけだ。
グラハムはニールの腰を抱え上げる。唇の間から甘い声が漏れる。グラハムのする何にも、ニールはよろこぶ。窒息するくらいの苦しさまでも。

「ああ、すげぇ、いい」
「そうだろう」

溺れてゆくニールの後をグラハムは追う。或いは心中に同じく。
幸せそうだなと己が与えていながら思う。
求めているものは知っていた。物理も心理も理も全てあまねく。
同じものを見れたならと願いながら絶頂へ向かう。向かえた先の頂であるが故の、後の谷も覚悟して。







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