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一年お疲れ!の乾杯の音頭から数時間、ハッピーニューイヤー!乾杯!の声が響きグラハムは賑やかに新年を迎えた。
定期的に開催される、パイロット、整備、技術部の各部に有志を集った、いわばフラッグ周りの飲み。今回は初の年跨ぎだ。
今年もよろしく、と談笑していたカタギリにグラスを掲げられ、グラハムはよろしく頼むと応じた。
また新しい一年が始まる。
そしてまたこれからの付き合いを当たり前に思い、それを望んでいる存在がいることは恵まれたことだ。当てたグラスの縁から旧年の縁を新年に結び繋ぐ。
やがて次々に参加していた部下達が挨拶に現れ、それぞれ言葉を交わした。

「こんな年越しもいいものだね」
「そうだな」

グラハムは代わりの酒を頼みスツールに座り直した。隣のカタギリはいつの間にかソフトドリンクを手にのんびりしている。

「君はもう飲まないのかね」
「そんなに強くないって知ってるだろう。というか君も珍しいんじゃないかい、また頼んで」
「なに、祝い酒だ」

ほどほどにね、と頬杖をついてカタギリが言う。顔がかなり赤いがそれも日系の血の結果で、見た目ほど酔ってはいなかった。元々酒量はセーブ気味だ。グラハムもそうだが、羽目を外すということがない。故に気があってこうして席を共にしているとも言えるのだが。

「よっグラハム!」

突然威勢の良い声で呼ばれ、同時にグラハムはがばりと肩を抱かれた。強引に引き寄せられる。衝撃におっととグラスを押さえるグラハムの傍らで、カタギリが悠長におやと言った。
声と呼び方を抜きにしてもそれが誰だかグラハムにはすぐ分かる。酒の席とは言えこの場でグラハムにこうしたことができるのもやりそうな性格なのも、ひとりだけだ。

「ニール……」
「おう、飲んでるか?」

胸元に引き寄せたグラハムを見下ろし、ニールが明朗な笑顔を見せる。ひどく酒臭かった。予想通りだとグラハムは思う。

「もう少し優しく触れてくれないか」
「ぶれーこーだろお堅いぜ隊長さん」

呂律の回りきっていない様子は酔っている以外のなにものでもない。当然だった。ニールはグラハム機付の機付長、整備士で、どちらかと言えば整備集団の方がパイロット団より飲み方が激しい。それも毎回恒例飲み比べ大会のレギュラーかつ強豪の一人のニールなのだった。加えてこの会の企画実行の一人であり整備部参加者の統括でありメンバー募集の貢献者でもある。要は飲み好きだ。
その調子で最初の乾杯からニールはあちこちに声を掛けつ掛けられつ、グラハムの所に来たのは今が初めてになる。すっかり陽気に、ばしばしと肩を叩いた。

「明けましておめでとさん」
「ああ、おめでとう」

応じながらグラハムは、接することは嬉しくともやれと思う。その気さくさと豪放磊落っぷりが男達の中に溶け込んで円満にやっている背景のひとつなのだが、恋人たる自分には複雑な所だ。せめて急襲しなくてもいいのではないか。
グラハムは叩くのを止めさせて、立っているニールを見上げた。

「そろそろ水を飲んだらどうだ」
「へーきへーき、まだまだ」
「また二日酔いになるぞ」
「新年そーそー野暮だぜ」

ニールはまるで聞く耳を持たない。日頃グラハムを手の掛かるやつだと言って呆れているくせに、こうなるとニールの方がずっと手が掛かる。
ニール、とグラハムは諌めようとして、しかし次の瞬間頭を抱き込まれ息を止めた。またも急襲だ。
ニールの柔らかい髪がグラハムにふわりと触れ、紅潮した顔が間近にあった。ニールは甘える猫のように頬を寄せ、上機嫌に笑う。

「今年も一緒にいような」

酔っている。でなければこんなことをするはずがない。酔いすぎだ。しかしグラハムはそれを咎めるのを放棄した。ふっと息を吐いて笑う。

「……ニール、 まったく君は」
「おーおー、返事は?イエスかオーケー」
「無論、姫を離さん」

グラハムはするりとニールの腰を抱く。顔を上げてもう一度名前を呼んだ。ニールは頭を抱えていた手を滑らせ、グラハムの両頬を包む。扇情的な目で見つめた。

「言ったな?聞いたぜ」
「姫こそ後で忘れたとは言わせんぞ」
「当たり前だろ」
「忘れていても改めて言うがね」
「言え言え」

グラハムがニールの後頭部を押さえたのとニールがぐいとグラハムの顔を引き上げたのは同時だった。
唇を重ねた。
おお、と歓声が上がった。
ついでにシャッター音も聞こえた。

「今年1発目おめでとうございます」
「なにいちゃいちゃしてんすか〜」
「機付長ぉぉ遂に結婚ですか!」
「さすがです隊長」
「俺今年は彼女作ります」
「き、君たちはほんとに……」

にやにやと、一部は何故か泣いて、すぐ側で蚊帳の外にされたカタギリはますます赤面して、ギャラリーができている。酔っぱらいしかいない。
グラハムは何食わぬ顔をしてキスを終え、とりあえず恋人作りの抱負を述べている一人に頑張りたまえとエールを贈る。
普段なら羞恥で暴れ出すこと必至のニールは、グラハムの肩に頭を預けたままぼうっと観衆を見、それから親指でカウンターを指した。

「お前ら次、ブッシュミルズ」
「ええー!」
「ビール、せめてビールで!」
「その旨を却下する」
「やめたまえ姫」

口真似をしてにっと笑う。満足そうに。
今一度ぽんとグラハムの肩を叩くとニールは身を起こして離れた。

「んじゃまた後でな」

強引な指揮官は抗議する面々の背中を押してカウンターに連れて行く。皆一様に楽しんでいるのは誰の目にも分かる。
グラハムの元には残り香も何も始終酒のにおいしかしなかった。
つくづく酔っている。
しかし私も大概酔っているなとグラハムは思う。色々な所が熱い。

「……後でどうなっても知らないよあれ」
「仕事始めも賑やかだろうな」

呆れた様子のカタギリはしかし、まぁ嫌いじゃないよと笑った。色々あれどずっと良い日々が送れればいい。仲間達と、友人と、大切な人と、また一年を。

「僕ももう一杯頼もう」
「おや、良いのかね」
「乾杯しないかい」

グラハムは頷いて応じ、澄んだ音を響かせた。







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