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君と虹彩が同じなら良かった


……なんだよ、いきなり



黒曜の瞳と我々の青や緑の瞳とでは、光の眩しさが違うという

そんな風にして

私の見ている世界と君の見ている世界が天と地ほどに違っていたとしたら?



……例えば?



私が赤だと思っているものが、実は君の目には私が緑と思っている色に映っていて、しかし君の世界では私の思うその緑を赤と名付けていたとしたら



……ややこしい



赤という名前が共通しているだけで、互いに思う赤色が実は互いから見れば違う色だったとしたら、と



……ああ、うん

なんつか、これまた大胆な発想だな



そもそも他人になることはできないのだから、これが杞憂かどうかさえも証明がつかないだろう



まぁな



つまり、君の見ている世界と私の見ている世界はもしかしたらまったく違うのかもしれない

私は君と同じものを見たいと思うのに



……なるほどね






……で、それが、なんかしたのか?



いや、……ただ、悲しいと思って



悲しい、?



私が私の内で聞いている私の声と、君が聞いている私の声は違うように

私は君と感覚を共有できていないのだと思うと

悲しい



……うん



それどころかむしろ、我々の共有しているものなどいくつになるのだろう


今我々が受けている日の光は約8分20秒前に発光されたものらしい

光がここに届くまでの距離分の時間だ

その理由で、同じ対象を見ていても、私と君の間の距離が3メートル違えば、一億分の一秒、認識まで時差が生じるという



たかが一億分の一じゃねぇか



それでも、ずれているのだよ


同じ空間にいるというのに、我々は時間も共有できていない



……それも、悲しいって?



ああ

私は君と同じ世界に生きたいのに

視覚も聴覚も、それではきっと嗅覚も味覚も違って、我々はそれぞれ違う世界にいる

これでは、一体、我々を結び付けているものは何なのだろう



……変なの

恥じらいもなく愛とか言ってる奴が、そんなこと言うなんて




愛だってそうさ

私が君に抱いている気持ちと、君が私に抱いている気持ちは同じ『愛』と名付けられていても違うかもしれない

私は私の中にあるこの気持ちに、世間から得た知識を引用して勝手に愛と名付けただけなのだから



引用、ね



私の生まれと成長の環境が違っていれば、それは全く違うものだったかもしれない

君と同じ「愛」を、はたして私は君に抱いているのか、わからない



……それも、同じじゃないと嫌だ、って?



吊り合っていなかったとしたら嫌だ



……へぇ



本当に、

どうしてこうも感情や言葉や五感というものは不確定で自己暗示的で独りよがりなのだろうか



うん



まったく、つくづく人は独りだな

こんなに近くにいるというのに、そのような差異が私と君の間では常に永遠に起こっている

永遠に君のそばにいれたとしても、君のすべてを私は知ることができない



全部知る必要はないと思うけどな、おれは



それにしてもだ

私と君の間

その距離は永遠に把握できない



距離、



……まるで、宇宙にぽっかり、私だけが浮いているようだ

どうしたって私も君も独りなのだ

孤立している

私も君も

違う世界にいる

……悲しいことだ















同じ世界ならあるよ、おれたちには








…………なんと



お前、考え過ぎなんだよ

考え過ぎてばかになってる



同じ視覚はあるんだ


目を閉じればいい



目を?



目を



目を閉じて、真っ暗な闇を見ればいい


おれには何も見えなくなる
お前にも何も見えなくなる

これで同じだろ?

光の時差もなくなったぜ



……しかし、これでは君を見られない




いいから








同じ世界にいたいなら

耳を塞げばいい

何も聞かなきゃいい




しかし、君の言葉が聞けなくなってしまう



いいから

言葉なんて曖昧なもの聞くな





目を閉じて






耳を塞いで






何も言うな




言わなくていい







視覚が違うなら何も見なければいい

聴覚が違うなら何も聞かなくていい

言葉が不安なら、何も言わなくていい






ただこうして、








手を繋いで



こうやって




抱き締めて








手に触れたそれがお前


お前を感じているのがおれ






それだけでいい



それでいい




触れたものを信じればいい


触れられるから独りじゃない




な、




これが、おれ達の世界





簡単だろ?








だから





距離があるだって?




腕が届く距離にいるよ、おれは




だから





ばかなこと考えてないで、黙って抱き締めろ





せっかく同じ世界に生まれたんだから






腕が届く距離で、ひとりじゃないって教えるよ















あきゅろす。
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