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ここにきてすぐに、ああこれは夢のなかだ、と頭がいった。どうしてわかるのかとゆうと、この手の夢は何度もみているからだ。
いま身体の支配権はここにない。みていると、子どもがひとり、うずくまっている場面になった。嫌な展開だ、同じ夢は何度もみている、嫌だ、いや。
あれはおれで、あいつはこいつ。夢は夢のなかが常で、それをうつつで目にしたことはたぶんない。
「もしも苦しくてかなしくてどうしようもないときは、きっと助けにいくって、約束する」
ぼろり、と大つぶのしずくが頬をつたっていた。幼いころはつらくてかなしいことでいっぱいだった、半分はあたたかくてしあわせなことだったはずなのに。
「だから、泣くな」
おもわず口をついたのは、その涙があまりに大切なものだったからである。いつのまにかおれは夢に参加していて、おれはおれだった。
「約束だから」
いつかの幼いおもかげはそのことばにこくりとうなずいて、また涙をこぼした。






「む」眠気が戻ってこないうちに起きてしまいたかったのだけど、頭部の心地善い重量のせいで、お、おきられない…(物理てきに)。
ベッドのなかにもぐりこむみたいに腕から抜けだすと、冷たい空気をいれないように床におりた。時間をかけたせいでけっこうなアクションでも恋人が目覚める気配はない。疲れてるんだよなあ…と寝顔をみつめ、ふと今朝の夢をおもいだした。
夢はまるでいつかの情景をおもいださせるかのように意味深だった。けれどそれは、夢に過ぎないのである。
はじめに涙していたのは自分だ。あの庭で自分が泣いていたことは、過ぎた日が多すぎて覚えていない。けれど泣いていたとして、その場に彼が現れたことは一度もないのだ。悲しいことじゃあない。
ずうっと笑っていたってことだ。
最後に流れていた涙は恋人のものである。はじめて出会ったときよりもさらにさらに小さかった気がするが、あのころは自分自身が幼かったのでほんとうはこれくらいだったのかもしれない。その涙がこぼれそうになったとき、おもわず口をついたのがいつも夢であいつがいうことばだった。
「悩みごとでもあんのか…」
これで大人なんだ。ばかだとはおもうけど、ばかじゃない(ディーノはおればかなだけだ)。
気つかってても何かあるときはちゃんとわかる。おとなしくなるし、ぐちっぽくなるし。
おれはディーノばかだから、わかる。






「夢、見たんだよ」
そうきりだしたディーノは、まだ寝てんじゃねえの?みたいな顔をしていた。一言めも意味不明だったし。
「おれやっぱハヤトに甘えてんのかな…」
よし、うん、精一杯甘えろ。いまいちひとりごとじみてきたので、存在の主張もこめて頭をナデナデした。あー、犬みてえ。
それでもディーノはおれを無視した。重症らしい。
「いつも考えてた。おれの勝手のせいで、ハヤトのしあわせを奪ってるんじゃないかって」
それは聞き捨てならない。けれどディーノはもうおれの意見を求めていないようだ。
「ハヤトがマフィアになることなかったのに」
「それはおれを否定してんのか?」
おれがマフィアになろうとしてること、ボンゴレとか10代目とか、おれの全てがおまえのせいだっていってんのか?それだけで生きていたのに、そういうことなのか?
そうだ、とディーノがいった。
「もっとしあわせになれたのに」
おれは自分がふしあわせなつもりはない。いくつか不幸は重なったものの、現状で満足しているし、満足とはしあわせのことだ。しあわせの上に幸福があるなら、しあわせになれるのはひとりだけになる。
「そのしあわせを知らないのは、不幸なことなのか?」
無垢な子どものふりをして、問うた。
おれはディーノが悩んでいることを知ってる。幼い子どものこころを捕まえてしまったことを、今もずっと悔いている。道を歪めてしまったと、狭く囲ってしまったと、罪の意識にさいなまれている。
マフィアになりたがったのはおれだ。拒みつづけたのはディーノだ。
望んだのはおれ、望まなかったのはおまえ。
知らぬひとに諭すことはできない。おれにその闇は救えなかった。
「…すまん、悪かった」
唯しあわせですと伝えることが、いちばん酷く彼のこころをえぐると知ってはいたのに。
「おれがおまえを捨てたら」
ディーノのはなしはおわった。こいつは大人だから、それについてもうおれにもらすことはない。だからこれは、もしものはなしできいてくれ。
「だれがおまえを守ってくれんだよ。こうやっておれがおまえの大切なものを守ってやってんだから、おまえはおれの平安をちゃんと守れよ」
おれはディーノを愛してるしディーノはおれを愛してる。これは絶対にかわらないことだそれはおれがディーノ以外を知らないとかディーノにはその責任があるとかそんな事項よりずっと確実なものでつながってる。
こころを痛めながらもそれは真実だから、さあ。
「なんていったら…おまえは信じてくれるの」
まだ子どもだけど、知ってしまった愛を失うのはさみしい。
だいすきなんだよ。あなたのこと。





07/12/17



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