ばぢっと焦点が定まる音を聞いたから、意識を飛ばしていたのかも知れない。 銀の弾が掠めたときそいつの身体は陰に置いていたから、どんな眼をしていたのかは見えない。けれど振り返ったときやつは三人か四人か…顔色ひとつ変えず指先だけで倒したところで、捉えた眸がまっ赤になるのは視えたから、トリップしていたのはほんの瞬きの間くらいなんだろう。 「、リボーン、さ」 一気に冷めた眼をして、発砲。四人だ。こいつが四人撃つまでに俺は六発弾を失っていたから、その間は一瞬よりも短いものだったようだ。 獄寺に怪我はない。だが表情は重く、目に見えて落ち込んでいる。 二三瞬きをして、獄寺の発したこえは善く聞くものだった。 中途半端に残ったマガジンを新しいものに交換してしまう。いくらかきゃしゃな指がゆっくりと撃鉄を起こした。あと一発。 「どうして庇ったんですか」 時間が経つにつれ、痛みは増すようになった。この程度の傷はどうってことはないし、騒ぐほどの痛みでもない。けれど平気なだけで、痛くないわけでもない。「うるせえ、傷に響く」 元もと白かった顔が、さっと色を失った。 負った怪我がその実対したことないのはお互いに知っていたので、これ以上獄寺が困ることはなかった。ややひねくれても。 「お怪我をされてまでのフォローはいりません」 この程度ならないわけでもないが、やはり撃たれる感覚には慣れない。もしそこにいたのが獄寺でなければ撃たれてやらなかった、のでもないかもしれないが、できることなら避けたい。避けよう。 「撃つの、平気になったじゃねえか」 狙いはまだまだど下手だけどな。 何年か前、獄寺に銃を持たせたのもリボーンだった。才能がないわけではないと、何故か銃に触れようとしなかった獄寺に扱いの易い拳銃を持たせるようにした。そこで多才な彼らしく射撃に関してめざましい成長を遂げれば都合の善いはなしだが、獄寺は人並み以上には育たなかった。こと、明確にひとのいのちを奪うこと、が恐ろしいらしい。いまさらなはなしだ。 「お前は弱いからな。死んだかもしれねえ」 痛いおもいはしたくないけれど。実際これで獄寺が死ぬとはおもっちゃいないが、万が一死なれたら多分困る。 獄寺もむきになって食い下がった。昔はころっとだまされていたものだが、聡い彼も。 「俺の所為でリボーンさんに何かあったら、10代目になんていえば善いか」 「俺が死んだらツナは困るだろうが、お前が死んだらボンゴレが困るんだ。」 今や大組織を支える彼、と自分ではもはや及びもつかない。10数年前に自ら選びとって呼び寄せた彼と教え子の選んだ彼はすでに手元をはなれてしまった。それが望んだ最善といえ。 獄寺はぎゅうっと眉間にちからをいれて押し黙った。返すことばが見つからないのか、探しているまっ最中なのか。面倒な奴だ、いまも昔も、おとなしくなることがない。 頭の回転のはやい彼が口を開きかけた瞬間に、それを遮ってひとこと、 「それと、俺も困る」 てめえはいわねーとわかんねえのか。 頬にさっと朱がさして、ことばが口をつくことはなかった。返事に窮して、検討違いなことを。 「す、すみません」 予想どおりの反応に満足して背を向けると、なつかしいような、慌ただしい獄寺の気配が後につづいた。 07/10/11 [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |