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※雲獄で骸雲で骸獄みたいな、つまり意味がわからないはなしってことです














眼を開けてもはじまる世界は闇だ。ならばいっそ、瞼を下ろしてしまったほうが安心する。そこがいちばん深い闇なのだと昔だれかがいっていた。怖いのは黒でなく白だとも。
ひとの近づく気配は職業柄善くわかるらしい。衰えてしまうかともおもったけれど、逆、かえって感覚は研ぎ澄まされる一方。けしていのちを奪われることはないから、無意味なのに。
そう、生命を冒される危惧はまったくない。
ほんとうにかすかな靴音は当然そこで止まる。この部屋には自分しかいないから。この部屋には、そのひとしかこないから。
「そうしていると、ほんとうに人形みたいできれいですよ」
じゃあ殺せよ、と。
いってやりたかったけれどそれはできない。生憎だがこのきちがいとことばを交わすことはずうっと前に止めてしまった。しかし他に訪問者のないこの部屋だから、しゃべらないのかしゃべれないのか、そこからもうわからない。とうに錆びついてしまった。のども、ことばも。
仕方がないから片眼だけ開けて前に立つ人物に視線をやる。口に出さなくてもそうすればだいたいのことは伝わるらしかった。便利なことだ。
「僕に死体を愛でる趣味はありません。ご期待に沿えず申し訳ないですが」
期待していた訳じゃない。否、していたのだろうか。今ここで、だれの眼にもふれずに命を終えること。
「きみの眼はとてもすきですよ。彼にもそういわれましたか?」
そしてその他は全て嫌いです。
強い力で手首を掴まれ、安楽椅子から引きずり下ろされた。ああ、唯一の領域が侵されてしまった。この部屋にはベッドがある。だけど眼をつむることと眠ることはもはや同義だったから自分の意志で使用したことは一度もなかった。与えられる食物を全て拒否してどんなに苦しくてもそこに座りつづけることがささやかな抵抗、だ っ た の に!
あとはやさしさもいたわりもなくずるずると引きずられるまま。
ちょうど部屋の終わりで投げ出された。
「彼に助けは求めないんですね」
訪れるひとがいるということはそこはドールハウスではない。出口がある。窓はなくても扉がある。
「きみはほんとうに不運でした。彼がいなければ、こんなめにあうことも、なかったのですけれど」
ひかりの中に出ることは容易である。安楽椅子に拘束具はない。だれも止めない。だけど。だけれど、外に出ることが、酷く怖いんだ。
俺が帰ったとき、お前はどんな顔をする?何ていう?この狂人は何をする?
「彼の興味をひいたのはどこですか?僕はそれが知りたい。聞こえていますか、獄寺隼人」
次に感じたのは、こいつに喰われる、ということ。唐突なキスに呼吸も思考も奪われて、大切なこともしばし、忘れた。
「善いようにはしません。僕はきみが大嫌い、ですから」
この部屋を出ることはたぶんできない。その前に俺は、きっと全部喰われて消えてなくなる。もうじきあえなくなるよ、だけど、それでも。ここを出ることは恐ろしくってたまらない。だから、助けて下さい。まだ俺のこと、覚えていたら。
「愛が在ったら、仕合わせでしょうに」
愛している、から。仕合わせ。





(愛されていたら、仕合わせ)
07/01/11


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