「じゃん!!」
「ネコ!!!」
「ねこ!!!」
「にゃんこ!!!」

「会話に・・なってないんだけど」

可愛らしい猫だ
それは認めよう
だが三十路も後半に踏み込んだおっさんが集まってキャアキャア言っている光景はお世辞にも言い難い
「ユキ見たー!?この子むっっっちゃ可愛い!!!」
「見た見た。可愛い可愛い」
「やろー?可愛いやろー?」
「アレルギーのハイドですらハグするくらいやしな!!」
「かぁーんわいー!!」
小動物一匹でここまで盛り上がれるものなのだろうか

結成のアニバーサリーライヴも終り、忙しさの中にもやっと息吐く間が出来た
そんなオフの日
マンションの一室、ケンの部屋
動物は許可されているので至って問題はない
ただ、煩いのだ
猫ではなく人間の方が
ハイドとケンとテツの間をたらい回しにされている小さい猫も迷惑そうな顔でにゃあにゃあと文句を垂れている
「ねぇちょっと、いい加減放してあげなよ」
「んもー何この子!!」
高い声でそう言って、小さな毛玉を床に降ろした
滑るフローリングにたじろぎながらも、猫は落ち着ける場所を探す様に歩き出した
「ユッキ!!何!!ユキ猫飼うの!!?」
妙に興奮したままのケンが鼻息荒くユキヒロに尋ねた
視線は猫にやったまま、だが
「ゆきーろ先生が動物飼うわけないやろー?」
一人暮らしの部屋には大きすぎるソファの背からハイドがひょこっと頭を出した
「じゃあテツ?」
「まさか!部屋汚れる!!」
「てっちゃん酷っ!!」
同じようにソファの向こうからテツも顔を覗かせた
「あの子ね、ケンちゃんにあげようと思って」
埒が明かない、と、ユキヒロは簡潔に答えを出した
「・・・・・マジで!!!!」
「マジで」
「うっそ!!ホンマに!?」
「嘘言ってどないすんのー」
「ケンちゃん前から猫欲しい言うてたやん?」
二人の突っ込みなどは見事にスルーで、ケンは部屋中の臭いを嗅いで回る猫に駆け寄って行った
「ホンマにこの子俺が飼ってエエの!!?」
猫を高々と持ち上げると、一人でくるくると回りだした
よく滑るフローリングだと他の3人が関心する程に
遠心力で猫の胴が伸びた
「ケンちゃんさぁ、今日誕生日なんだよ」
「えーおめでとー」
完全に猫に釘付け状態のケンにはユキヒロの言葉は6割程度しか伝わっていないのだろう
はたまた別の理由としてライヴで自分の誕生日は終わったとされているのかもしれない
とにもかくにも、ケンは1番重要な部分を理解してはいない
灰色の艶やかな猫の毛に顔をぐりぐりと押し付けている
猫が鬱陶しいと言わんばかりのパンチを繰り出しても、ケンの髪がわさわさと揺れるだけだった
「だから、その子は俺たちからのプレゼントね」
「ふふーありがとぉー」
「コレは俺から個人的にプレゼントー」
テツはソファから立ち上がると、派手な刺繍の施されたジーンズのポケットから、皮の紐状のモノを取り出した
「ライヴロゴ決まった頃に見つけてな?猫なんて全然飼う気もないのに衝動買いしたん」
ケンの腕の中でカリカリと爪を立てる小さな猫の首にそれを巻きつけた
白くて細い首輪だった
真っ赤な小さな鈴と、真っ赤な苺のチャームが付いていた
「この子女の子らしいし。使ったって?」
「似合うやん、さすがユッキーが選んだハニー」
首輪が邪魔なのか、逆に気に入ったのか、猫は腕の中だというのにゴロゴロと転げまわった
「ユキの女を見る目は凄いからなー」
ケンはひゃっひゃと喉で笑いながら猫をまた床に戻した
待ってましたとハイドが手を伸ばしたが尻尾であしらわれてしまった
「名前、ハニーにしちゃおっかな」
「すっげぇオス漁りしそうな名前!!」
ピンと立てた尻尾を左右に揺らしながら彼女はソファをなぞる様に歩いている
そんな後姿を目で追いながらハイドが言った
「現に今ハイドもフラれたしなぁ」
テツも立ったまま彼女の行方を見つめた
猫はカーペットに座るユキヒロの足の合間を縫う様に歩く
しかし手を出されればツンとそっぽを向いた
「ユッキーまでフルとは・・やりよるで、この子・・」
うむ、と顎に手をやってハイドが言った
「ハニー!!おいでハニー!!」
ケンが手を小さく叩いて彼女を呼べば、ピクっと形のいい耳がそちらを向いた
にこっとケンが微笑むと、大きな緑の瞳がジッとケンを見つめた
「お、脈アリか?」
ハイドは茶化す様に言ったが、猫がタタッと駆けて、ケンの腕に飛び込んだ
まさか来てくれるとは思いもしなかったため、わっと一歩引いて抱きとめた
猫は挨拶の様に濡れた鼻でケンの頬にちょんと触れ、またその腕から飛び降りた
「ハニーで決定だね」
「ケンちゃんの事気に入ったみたいやしね」
満足そうにテツとユキヒロが笑う中、ハイドだけはどうも猫の態度が気に入らないらしく、しつこく彼女を追いまわした
それでも猫は見向きもしないで新しい家の散策に励んでいた
「何で俺はアカンの、ハニィー・・」
「お前中身黒いでなあ。動物には解るんちゃう?」
「女は騙せても猫はアカンのなー」
「たまにはフラれてみるのもいいんじゃない?」
壁まで追い込まれてしまったのに気付いた猫は、いい加減にしろと、爪を立ててその小さな手をハイドの腕に向けて振り下ろした
部屋には笑い声と、猫の鳴き声と、煩い叫び声が響いていた




cat!!
(k's birthday)


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