「ケーキはやっぱりチョコケーキ?」

人間ってさ、夜半の電話に限ってその内容が無意味に思えたりするもんじゃない?
例に漏れず今俺にかかってきている電話は正にそれ
日付もまだ変わっていないし、特に真夜中ってわけではないのだけれど、俺にしてみれば真夜中の中の真夜中な気分
ここの所仕事仕事で寝る暇すらなくて、つい30分位前、やっと睡眠らしい睡眠が取れるって布団に入ったところで
そんな所に電話がかかってきてみてよ
非常に、この上なく、極まりなく、果てしなく無意味だと思うでしょ
それなのに俺が電話を切れずにいるのは、相手が本気で尋ねてきているからなのかな
煩くて耳から話した受話器から、ハイドくんが俺を呼んでる
「・・・・・うん、チョコがいい」
受話器を耳に戻してそう言えば、声がかすれた
「ワインは赤?白?」
声が変わった
テツくんの声
さっきからハイドくんの後ろでギャンギャン騒いでいるのが聞こえていたけど、きっとテツくんとケンちゃんの声だ
大方3人で仕事から直で誰かの家に転がり込んでドンチャンやっているんだろう
「ユキは白派やったよなー」
ケタケタと笑うケンちゃんの声が小さく聞こえた
「・・うん」」
「ちょおケンちゃん黙っといて!今電話中やねんから!!」
さっきまで自分も煩かった癖によく言えたものだ
もう1度布団に潜って、電話をスピーカーホンに切り替えた
もう電話を持っているのも億劫だ
「ユッキー、あなた明日誕生日ですよ?覚えてるう?」
普段なら絶対にこんな気の抜けた喋り方しないのに
テツくん結構呑んでるんじゃない?
それでも俺の誕生日は覚えているから不思議だ
「・・・そうかも。忘れてた」
「やっぱ忘れてた!自分の誕生日くらい忘れたらアカンにー?」
子機から少し機械っぽさの混じった声がする
内蔵された部品が振動で震えているのだろう、ビリビリと小さな音も混ざっている
「いいんじゃない?テツくんが教えてくれれば」
「えー?それアリー?」
向こうでテツくんがクスクス笑っている
小さな笑声が眠気を誘う
段々と目蓋が重くなっていく
視界もぼやけ始めた
これって1番気持ちいい瞬間じゃない?
「ユッキー!!誕生日オメデトー!!!」
キンキンと高い声が耳に響いた
それにすら動じない自分に少し驚いた
どんだけ眠いの、俺
「・・・明日でしょ?早いよハイドくん」
いつの間に電話代わったんだろう
「ちゃうもーん!今日付変わったから24日だもんねー!」
得意気にそう言った声が子供の様で、まどろみの中に愛しさが注した気がした
「おめでとーユッキー!!」
「おめでとユキぃ!こんで親父にまた1歩近づいたなー!」
ゲラゲラと笑う3人は完全に酒に呑まれてる
ここらで通話を切ってもきっと誰も気付かないんじゃないかな
それでもその馬鹿みたいな笑い声を心地よく感じてしまうのは、俺もまた馬鹿だって証拠だろうか
どんどん沈んでいく意識の中、目に入るのは受話器だけ
「明日朝10時に迎えに行くからー」
最後に聞こえたのはテツくんのその一言だけ
目を閉じて途切れていく意識で思った

きっと俺のお祝いしてくれるんだろうけど、あの3人、10時なんかに起きられるわけがない
精々昼過ぎだろうな
それまでに何かつまみでも作っといてあげよう
してもらってばっかじゃ悪いしね



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「ごごごごめんユッキー!!!!みんな今起きた!!!!」
「ああ、テツくん?割と早かったね2時過ぎるかと思ってた」
「ほんっとゴメン!!すぐ行くから!!!」
「別にいいよ。慌てるとあぶ
「ぃいっったーー!!!!ケンちゃん邪魔!!!」
ないよ・・・・・気をつけて」






ring ring
(y's birthday)







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