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さらさらり(沖田)


肌にじっとりと纏わりついてくるような湿気がないだけで、気温が高くても格段に過ごしやすい。
本当に、いい季節になった。

どこか若々しさを感じる秋風に当たりながら歩く最中、窓ガラスに映る自分についにやけてしまう。
今日は夏の紫外線でダメージを受けた髪をなんとかしたくて、美容院にトリートメントだけしてもらいに行ったのだけど、
美容師さんに勧められるまま、サービスで毛先をちょこっとだけ整えてもらえたのだ。
本当に少しだけ、些細とも呼べないくらいの変化だけど、気分が軽いせいか驚くほど雰囲気が違うように見える。
嬉しくて、美容院から真っ直ぐ帰らず遠回りしてたくさん歩いてしまった。


屯所に戻る頃にはもう日が落ちかかっていた。
まるで空が大慌てで夜の準備をはじめているみたいだ。
このくらいの季節から夕方が短くなってくる。
門をくぐる前に、ちらりと視線の隅に捉えたうっすらとした白い月に思わず空を仰ぎ見る。
そんな私の後ろから、ざっざっと軽快な足音が聞こえると共に落ち着いた声がかけられた。

「いま帰ったんですかィ」
「うん、ただいま」

真選組の一番隊隊長で私の恋人でもある沖田総悟が、
私の言葉に微かに首を傾け、空気を柔らかくして小さく笑う。
ゆっくりと確かな歩みで距離を縮めてきた総悟は、視線を絡めながら私の正面に立った。
どうして屯所に入らないのかという不思議そうな眼差しに、私はにっこり笑って空の月を指差した。
総悟は私の指差す方向へすいと顔をあげ、月に向かって目を細めた。そしてすぐに私に視線を戻す。
ふ、と総悟の瞳が、何かを見つけたみたいにある一点に固定された。
気付いたかな。私がほんの少し、髪の毛を切ったこと。

「髪、いつもと違いやせん?」
「へへ、わかった?」
「銭湯にでも行ってきたんですかい」

シャンプーくせえ、と総悟が私の腰を引き寄せながら鼻先を私の髪に近づけ、
どさくさに紛れてこめかみに唇を押し付けてくる。
柔らかくてひんやりとした総悟の唇は、私が眉間に皺を寄せると同時に離れていった。

「銭湯には行ってない」

人通りがないとはいえ、こんな場所で腰を抱かれるなんて恥ずかしい!
私は「離して」と総悟の腕を引き剥がそうとするも、総悟の腕はしっかりと私の腰に巻きついたまま。

「ああ床屋行くっつってやしたねそういえば」
「美容院ね」
「こいつはシャンプーとやらのにおいか」
「トリートメントしてもらったの。髪の内側まで美容成分が浸透してさらさらになるんだって」
「何もしなくたってアンタの髪はサラサラだってのに」

これ以上を求めるたァ貪欲だねィ、と繊細な表情で目を細めながら、総悟は私の髪に触れて笑う。
彼の指からさらりと髪が落ちていく。
この時の、総悟の表情を見るのが好きだ。
髪の流れを、艶めいた瞳で愛しげに見つめてくれる。

「髪の毛、少しだけ切ってもらったんだよ」
「へえ、正直どこが変わったかわかりやせんが、いいんじゃないですかい」

美容院代は高いからたまにしか行けなくて、普段は自力でケアしてるのだけど、
やはりプロが手を入れてくれた髪は違う。しっとりとしてるのにさらりと滑る。
滑り落ちた髪を、また総悟の手がすくう。何度も、手のひらでその感触を楽しむように。

こうして総悟が優しい手つきで触ってくれるから、だから髪の手入れはできるだけ丁寧にしたいのだ。

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拍手ありがとうございました!


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