俺、姉ちゃんのことすっごく好きだし、大事だけど、こればっかりは譲れない。俺、茜ちゃんのこと本気だからね。
弟である孝弘にこう宣言されたのは、私が高校3年生の、卒業間近である2月のことだ。
茜ちゃんとは、私と孝弘の幼馴染の女の子のことだ。歳は私と同じ。私と茜ちゃんは同じ大学への進学が決まっていて、さらにはルームシェアをすることまで決まっていた。
私達姉弟と茜ちゃんの関係は、昔ほど単純にはいかなくなっていた。
「…付き合えばいいのに」
私は言ってはいけないことを、ぼそりと言ってしまった。
そもそも、弟が姉に恋のライバル宣言するこの状況が、私の判断力を鈍らせる大きな原因だろう。
「またそれー?」
茜ちゃんが、取り付けたばかりのカーテンを開きながら快活に笑う。
新しい生活の場に、幼馴染の親友が付いてくるというのは、正直なところとても心強い。それはお互いにそうなのだろうけど。
そう、私にとって茜ちゃんは、親友だ。
「私、孝弘なら、茜ちゃんのこと任せられるよ」
仲の良い姉と弟だね、と茜ちゃんは微笑むばかりだ。
カーテン周辺のものをまとめながら、茜ちゃんがこっちにくる。昼下がりの陽射しが、少し眩しい。
「…何回告白すれば、受け入れてくれるの?」
夏までやっていたソフト部の名残りでこんがり焼けた顔が、物悲しそうに笑う。
真理ちゃんは結構、ずるいよね。
添えられた一文は、聞き慣れてしまっていた。
「好きだって言ってくる人と、一緒に暮らそうとしてるんだよ? そろそろ、自分の気持ちに腹くくりなよ」
しゃがんで私と目線を合わせた茜ちゃんが、くしゃりと私の頭を撫でた。
こんな単純なことだけど、どうしようもなく動揺して、どうしてか、泣きたくなってしまうことは、ずっと変わらない。お姉ちゃん達に頭を撫でられるのとは、全然違う感覚だ。
ずるずるずる、この関係に甘えているのは私で。茜ちゃんも、私を諦められない。
「ごめんね」
私はまた、世界で1番大事な人を傷付けた。
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