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意識の覚醒は唐突で。
真っ黒に塗り潰された世界から突き飛ばされるように、現実に引き戻される。
まず眼に入ったのは、ぼんやりと霞んだシーツの波間と、その向こうに見える豪奢な部屋の調度品の数々。
呆然とそのまま動かずにいれば薄暗い室内に眼が馴染んで、徐々に思考が動き始めた。
次に戻ったのは酷く不快な感覚。
肌に纏わり付いて離れない感覚は、思い出したくも無い狂乱の証。
翡翠の瞳が頭を過ぎり、ぎゅっと眼を瞑ってそれを意識の外に追いやる。
考えたく無い。
そう思うのに思考にしがみ付いて生きてきた自分は、考える事を止められない。
穢れの無い、崇高な魂に穢れた己の全てを見られてしまった、この感情は後悔なのか………思いが複雑に絡み合って、分からなくなる。
思考は淀みなく、淡々と物事を整理しようとしているのに、感情というものを冷静に分析出来ず、飽和状態を起し始めている。
この、覆す事の出来ない自分の敗北を、屈辱を、後悔を。
「ははっ………何てザマだ」
認めたくなくて必死に言い訳を探している、あまりに滑稽な自分に渇いた笑いが漏れる。
不毛な思考の迷宮に嵌まり始めた己を叱咤して身体を起せば、酷い痛みが走り抜けて両腕で支えきれずに、崩れ落ちた。
「―――――っく!」
身体の奥に走った痛みに息を詰める。
無理な体位を強制されたせいで、全身の筋肉が悲鳴を上げて軋む。
体液の残るシーツを握り締め――――その縋る指さえ震えて上手く力が入らない。
頭から血液がさぁっ、と引いて身体の温度が低下していく。
身を堅くしてただ耐えていれば、どうにか鋭い痛みは過ぎ去り、その代りにじくじくと不快な鈍痛が蝕む。
この纏わり付く感覚を少しでも早く忘れたくて、ベッドからそっと足を下ろしてシャワールームを目指す。
「ぁっ……ん…」
毛足の長い絨毯に足を置いて自重を支えれば、また腰の奥が痛んでドロリ、と残滓が溢れる。
それが脚を這う感覚に思わず、漏れた声が許せなくて唇を強く噛んだ。
縺れる足を叱咤し、軋む筋肉で強引に足を運んでシャワールームへ辿り着けば、緊張が解けて、そのまま崩れ落ちそうになる。
縋った眼前の鏡に映るのは、白い肌に散る征服の爪跡。
擦り切れて痛む拘束の名残。
全てが忌まわしい記憶を掘り起こしては神経を苛む。
コックを捻れは勢い良く冷たい水を浴びる事になり、体が竦んだが構わず身を晒した。
徐々に暖かくなっていくそれに身を委ねれば、深い溜息が漏れる。
ひとつ。
息を吐いて、息を詰めた。
後ろへと指を這わせて、未だ熱を持っている直腸へと、指を入れて精液を掻き出す。
内壁を辿る粘着質なそれが緩慢な刺激を伴って指を汚して、シャワーに流されていく。
「く、ふ………ぁっ………」
もう、いつの間にか慣れてしまった行為。
「ん………は、ぁ」
何て、無様なのだろう。
眼の奥がじわりと歪んで熱くなった。
「……ひっ、く、………ふ……ぅ」
暖かいシャワーが凍りついた心を熔かしていく様に染み込んで、嗚咽が漏れた。
どうして、こうなったのだろうと。
それは、自分の罪を問うのと同意語だ。
望んだのは、こんな事じゃなかったのにと。
そう思う愚かしい自分。
「ス、ザク………」
切り捨てられなかったのは弱さなのか。
そうだとしても。
求めて止まない存在を呼べばまたひとつ、涙が頬を伝った。





あきゅろす。
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