[携帯モード] [URL送信]
「ぃ………ぁ、はぁ、ん」
後頭部を鈍器で殴られた様な衝撃。
常は堅く閉ざされている筈の扉は僅かに開いて。
漏れ聞こえる、濡れた声は紛れもなくルルーシュのもので。
その場に立ち尽くしたまま、しかし頭が逆に冴え渡っていくのを感じる。
「―――――そういう事か」
シュナイゼルはこれを見せる為に自分を呼んだのか。
俺と、ルルーシュの関係を知った上で。
それは既に確信。
腹の底に黒い感情が凝っていくのを自覚しながら開いている扉を叩いた。
「枢木スザク准尉であります。」
ルルーシュが、そんな姿を見られたくないのも解ってる。
俺が、シュナイゼルに逆らえない事も。
………これから自分が取るべき行動も。
「―――――入れ」
ごめんね、ルルーシュ。
「失礼致します。」
だけど、これが俺の選んだ道だから。
たとえ君が、どんなに傷つこうとも。
この道を違える事は出来ないんだ。
それでも君は俺を愛してくれるよね?
高潔な君は、他人に責任転嫁出来ないから。
君が、今そんな目にあっているのは僕のせいなのに。
他人に汚されて尚、自分を想っているという確信は昏い悦びを生み、その皮肉に唇を歪ませる。
そして、ひとつ。
深呼吸して顔を上げ、部屋へと一歩を踏み出した。
室内はランプの淡い光が灯るだけの、外と隔絶された別世界。
空気は生暖かく身体に纏わりつき、生々しい匂いが充満するその中心に位置するベッドの上で、
折れそうに細い裸体を晒したルルーシュが目に入る。
「お呼びでしょうか?」
自分の発した、場違いなまでに上官に対する慇懃無礼な態度が空々しく部屋に響く。
「す、ざく………?!」
天幕の上げられたキングサイズのベッドに凭れる神話の彫像のように神々しい、
王者の貫禄を漂わせるシュナイゼルが高貴な微笑みで答える。
まるで、この場にそぐわない会話。
「お前に会いたいだろうと思ってね……?」
暗い室内で尚、その白さが分かる程の肢体に食い込む黒い拘束具が痛々しく映える。
ルルーシュの視界を奪っていた拘束具が解かれ、はらりとベッドへ落ちる。
泣き腫らし、視界を奪われていた事で麻痺した瞳が視覚を取り戻すと同時に、凍りついていく。
「ひっ………ぃやだ、見ないで………見ないでスザクっぁあ!」
シュナイゼルの膝の上で不安定なバランスを保っていたルルーシュの身体が下からの突き上げに、
背中を逸らせて身悶え、濡れた哀願が部屋に散る。
首から僅かな余裕を持たせて伸びた鎖が両手首へと繋がり、自分の身体を支える事さえままならず、
ルルーシュはなされるがままに、乱される。
「いやぁ………許してぇ、兄様ぁ!」
顔を背けた事で無防備になった首に張り付く黒髪をゆっくりと掻き揚げ、
うなじに慈愛に満ちた残酷な舌が辿る。
「っん――!」
何かが、音を立てずに崩れ落ちて行く。
モノクロにしか写らない現実(いま)に、ルルーシュだけが色を持って息づいている。
「おや、何を許せというのかい………?」
繋がった秘部をゆっくりと辿られて、ビクビクと震える姿は憐れな程、色欲に支配されているのに。
堕ちきれずに悶える、欠片の理性に必至にしがみ付く姿。
「くぅ………ふ、ぁああっ」
長い睫毛が震え、アメジストをはめ込んだ瞳は虚ろに甘く歪んでは透明な雫を止めどなく零す。
生々しい肉欲に溺れて、罪悪感に身を狂わせながら震えて許しを請うルルーシュを愛しいと。
只、思いながらその狂態を前に立ち尽くす。
永遠とも思える、狂宴。
そう、俺もとっくに狂っているんだ。
君はその事を知らないから。
「ほら、大切なお友達なのだろう?」
「いや、ぁ………」
ゆるゆると首を振るルルーシュの頤に手を添えられて強制的に瞳が合えば、更に劣情に歪む。
狂おしいと思う。
「何か、言う事でもあるのか?」
「いえ、何も。………何もありません、殿下。」
自分でも意外な程に無感動な声が出た。
聞かせた事の無い声にビクリと身体を震わせて傷ついた瞳を向けるルルーシュ。
ああ、傷つけちゃったな。
無機質な表情の下でそんな事を思う。
絶対服従の仮面の下はシュナイゼルも読み取れない筈だ。
これは誰にも、ルルーシュにも見せない本心だから。
本当は見せたくなかったけど。
軍に在籍している自分は、ルルーシュに隠し通して来たのに。
自分に純粋さを求めているのは分かっていたから。
でも。
もう、取り返しはつかない。
「ふふっ………そうか、中々見込みがあるな………ルル?」
ルルーシュと同じ、紫の瞳が妖しく微笑む。
「用はもう済んだ。下がれ。」
「イエス・ユア・ハイネス」
完璧な礼を取り、部屋を退出。
軽い音を立てて、自分の後ろで扉が閉まった。
気付けば堅く握り締めていた拳に濡れた感触。
ゆっくりと手を開けば爪の間から滴り落ちる、朱。
痛みも自分の熱も感じられない。
ただ、肌に筋を描く血の感触が、酷く不快だ。
静かに、狂おしく身を焼く感情が全身を支配していく………黒く塗り潰していく。
「………殺してやる」
漏れた言葉は毒を含み憎悪に滴り、静かな廊下に融けた。
穏やかとも言えるその表情はそのままに。
しかし、翡翠の瞳だけは明確なる殺意を灯して。
元来た長い廊下を引き返す規則正しい足音。
それは、決して立ち止まる事は無かった。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[管理]

無料HPエムペ!