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それは見逃してしまう程の違和感。
気付いた時には既に身の内に深く根を張り、精神を食らい尽くそうと暴れ回る。
まるで病魔のようなそれは、必要な代償。
そう。
俺は知っていて契約した。
それがどんな結果を招くとしても、俺は……






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数式を解く教師の声が遠くに聞こえる。
心持ち体を斜めに向けて、考えるように俯く。
昨日の作戦からの疲れを体の奥に感じながらも教室に射す穏やかな光を浴びて微睡めば全てが遠い事のように感じられる。
さらり、と前髪が俯いた顔に掛るのをそのままにルルーシュはうっとりと瞳を閉じた。
それは束の間の休息。
「………?」
さわり、と肌が粟立ったその感覚にルルーシュは長い睫毛を震わせて瞼を上げる。
平和な時間に体の奥に刺さった、ごく小さな棘。
なんだこれは。
暖かく緩やかな微睡みに浸っていた心がすうっと冷たくなる。
正体の分からない違和感がやがてよく知った種火となり、体の内側がら爛れ腐り落ちるような。
警鐘が耳鳴りとなって頭に響く。
奈落へと突き落されて際限なく堕ちていく錯覚。
「っ……」
その違和感はやがて言い訳の出来ない快楽へと確実に変化し、体の奥から指先にまでじわじわと緩やかに蝕み始めるのを唇を噛んで耐える。
息が詰まって、普段ならば決して緩める事のない制服の襟を握り締めてボタンを外した。
思考の奥底にさえ甘い誘惑を感じて、身を委ねてしまいそうな己を叱咤しながら思考を巡らす。
「ふ、…ぅ…」
思わず、甘ったるい吐息が漏れそうになり奥歯を噛み締めた。
「ルル………?どうしたの?」
心配そうにこちらを見るシャーリーの視線にびくりと体が揺れる。
「い、いや何でもないんだ」
悟られる訳にはいかない、誰にも。
「えっ、ちょっと。目が潤んでるよ?熱あるんじゃない?」
「っぁ…」
冷たい手が火照った頬に触れるだけで指先にまで鋭く電流が流れるように快楽が走り抜ける。
「ちょと、大丈夫?!」
教師に気分が悪いと告げたそれはいつもサボる為の言い訳だったが今回ばかりは納得されたようですんなりと息苦しい教室から開放される。
そのまま保健室になど行ける訳もなく、ふらつく足取りで与えられた自室を目指す。
授業中で人の気配はするのに人影のない、独特の雰囲気がまるで非現実的だと霞掛った思考で思う。
まるで自分の存在する空間が歪んだようだ。















「ごめん、ナナリー。ちょっと調子が悪くて。今日の夕食はいらないって咲世子さんに伝えてくれるかな」
突然の帰宅でナナリーに見つかったのは計算外で、とっさの上手い言い訳さえ思い付かないなんて重症だ。
「えっ……お兄様…?」
「大丈夫、ちょっと寝ればすぐに良くなるから」
訝しがるナナリーへの言い訳もそこそこに自室まで辿り着く。
心配を掛けてしまった罪悪感はあるが、それを気にする思考の余裕はもうない。
扉を閉めたと同時にその場にへたり込む。
自分の輪郭を確かめる様に両腕を交差させて自らの方を抱きしめて爪を立てる。
なんて無様なんだ。
「お帰りルルーシュ。」
掛けられた声の方へと視線を向ければ金色の瞳が冷たくルルーシュを見下ろす。
「……CCっ!これも、ギアスの代償だといいたいのかっ…!」
八つ当たりのように喰って掛かれば、まるで物分かりの悪い子供の面倒を見せられたようにCCがひとつ、溜息をついてベッドから降りた。
「……力を得る代償は付き物だ。それはお前もとっくに納得したと言っていたじゃないか。
普通ではない力を手に入れて失うものが何もないと思っていたのでもあるまいし。今更何を言う?それともそんな甘い考えだったのか?」
座り込むルルーシュの前に屈みこんだCCの指先が前髪を掻き上げ、その金の瞳で覗き込んでくる。
ひやりとした冷たく細い指先が触れた所から広がる狂おしい感覚に大袈裟なまでにルルーシュの体が震えた。
「触るっ、な…っ!」
ざらり、と粟立つような感覚を拒否するようにCCの腕を払い退けるが上手く力が入らず余弱々しい抵抗にしかならない。
「苦しいだろう?だが受け入れなければ更に苦しむ事になるぞ」
払い除けた手を取られて逆に壁へと押し付けられる。
「ギアスは契約者の望むものを与えて最も望まないものを代償にする。お前のそのお高いプライドをな。」
「黙れっ」
細い腕に自由を奪われて不快感を訴えるように睨みつければ間近にある金の瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えて息を詰める。
「私を抱くか?」
「なっ、ふざけるな!」
「……あぁ、それとももう女では満足出来ない身体だったか?」
意地悪く歪められた微笑みにタチの悪い冗談だと知る。
「貴様……!」
「堕ちて来いルルーシュ。」
「どういう意味だ」
ルルーシュの手を離して立ち上がり、傲然と言い放つその意味を測りかねて聞き返す。
「全てを受け入れなくては身を滅ぼすのが早まるだけだ……」
まるで力に溺れると決め付けられた言葉はルルーシュの崩れかけたプライドの輪郭を一瞬取り戻させる。
「俺は力に呑まれたりしない」
「呑まれるのと受け入れるのは違う……もう、お前は後戻り出来ないんだ。魔女の私に魂を売った時からな。」
「出て行けっ……」
それでも頑なに拒絶を紫電の瞳に宿して気丈に睨み上げるルルーシュにCCは深い溜息を吐いた。
「勝手にするがいい……だがお前は遠からず受け入れなければならない。それはお前が良く分かっている筈だからな。……今のお前に足りないのはその覚悟という訳だ。口先だけの童貞坊やには難しいか。」
軽い音を立ててドアがCCとルルーシュを隔離する。
「くそっ……!」
こんなに欲していても、望むものは手に入りはしないと知っている。
分かるからこそ余計惨めになる。
だから、これは認める訳にはいかない……認めたくない。
こんなに痛む心など無くなってしまえばいいのに。
助けたいと願って手に入れた力は、俺から全てを取り上げてなお更なる代償が必要だというのか。
心が、体がこんなにも欲するのはただ一人だけなのに。
もう、手を伸ばす事さえ叶わない。
「っ……ス、ザク………」
押し殺した声でその名を呼べば更に苦しさが増したような気がした。



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