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アリバイ









深夜、静まり返った研究所内に微かな物音と灯りが漏れる。
研究室に併設された簡易キッチンは研究に没頭するロイドの為に作られたものだ。
そこの責任者でありながら日常生活から乖離しているロイドの指先が目当てのものが見つけ出せずに戸棚を彷徨う。
指先を引っ掛けたせいで接触を起こした食器同士が上げた耳障りな音が夜の空気を震わせてやけに大きく響いた。
「コレですか?」
「………っ!」
突然、声を掛けられ振り向けば意外な人物がいつも愛用しているマグカップを手に扉に佇んでいるのを見留める。
「そう、それ……どうしたのぉ?こんな時間に?」
「ちょっと忘れ物をしまして。コレ、ロイドさんのデスクの上にありましたよ」
答えるスザクの瞳がいつもより暗いと感じるのは夜のせいか。
「そう言えば、さっきシュナイゼル殿下をお見かけしました」
コツコツ、とスザクのブーツが規則的な音を立てて響く。
「そうなの?」
いつも通りに完璧に取り繕ったつもりだったが、声だけ取り繕ったとしても無駄だろうと自分の姿を後悔する。
「……君はつくづく間が悪いなぁ、そこで殿下の名前出しちゃう所もね。見ない振りが出来ない所は可愛くて嫌いじゃないけど。」
溜息と共に零れる時々掠れる声は甘さを隠しきれない。
「一応言っておくけど上官の詮索は命取りだよ……?」
素肌に羽織った白衣から覗く胸元に散る情事の痕跡を手遅れとは思いつつ、さり気無く隠す。
「勿論、分かってます。コヒーは止めた方が良さそうなので、セシルさんのハーブティでも淹れましょうか?」
ロイドの返答を待たずに勝手知ったる動作で戸棚から茶葉を取り出す。
「あははっ、君は本当に面白いね。じゃぁ、お願いしようかな。」
笑みを形作っている悩ましい唇に指先を這わせながらロイドが楽しそうにスザクを見た。
「イエス、マイロード」
暖かい湯気が立ち上り、ふわりと優しいハーブの香りが漂って意識していなかった疲労が重い眠気を誘う。
「あっ、でも仕事の時はやっぱりいつものロイドさんの声がいいです」
やはりこれからランスロットのメンテナンスをするのは無理かと、茶器をセットするスザクの後姿をぼんやりと眺めながら考える。
「んー?」
「ランスロットの操作、うっかり間違えちゃいそうなんで」
思いもよらない一言にロイドの目が大きく見開かれる。
「もぅ……大人をからかうもんじゃないよぉ?」
それは秘密の共有者となった者同士の微笑み。
「では、これで失礼致します。」
「お茶、ありがとぉ。」
ひらひらと手を振れば頭を下げたスザクが微かに微笑んだ気配がして、扉は閉まった。
「やっぱり彼は面白いパーツですよ、殿下……」
暖かいハーブティに口を付けながら呟いた言葉は立ち上がる湯気と共に夜の空気へと融けた。



あきゅろす。
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