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体の傷が癒える頃、既に時代は明治へと変わっていた。新選組として戦って来た人達はもう居ない。近藤さんは斬首。沖田さんは病死。斎藤さん、藤堂さん、副長は戦死。原田さん永倉さんは所在不明。みんな居なくなった。

「傷が癒えたとはいえ、まだ安静にしてなきゃいかんぞ」松本先生にそう言われて、床の中で一日を過ごすようになった。そんなある日、客人が来た。「山崎さん、こんにちは」女性らしいその声の主は雪村君だった。訪問にも驚いたが、何より女性らしくなったことに驚いた。こう言うのは失礼か。昔は男装に身を包み髪を結上げていた。今ではその髪を下ろしよく似合う着物を着ていた。

「今日は天気が良いですね」
「ああ」

短く会話しては途切れ会話しては途切れ。あまり苦にならないぎこちなさを感じた。そこで突然彼女が自分に向き直った。何かと視線を送ると「今日はお見せしたいものが合ってお邪魔したんです。」と顔つきを変えてそう言った。なんだろう、と彼女が風呂敷から何かを取り出す動作を見つめていた。けれど、出されたものを見た瞬間、呼吸が止まった。

「──新選組の、旗…」

声に出していたんだろう彼女は、そうです、と自分に手渡した。誠とかかれたそれはボロボロでおおよそ掲げることは出来ないものだった。焦げて端がなくなっている。ボロボロのそれに更に穴が空いてしまうのではないかという程凝視した。頭の中では色々なものが鮮明に蘇ってきた。

「……君は、もし」
「…え?」

浮かんだ言葉を一度区切った。すっ、と息を肺に送ってから言葉を紡いだ。



「今、また彼らに会えるとしたら」
「──…何を伝える?」



彼女は彼らの優しくて人間らしい部分に一番多く触れた人間だと思う。そして被害者と言っても過言ではないだろう。軟禁され、殺されそうになり、いつの間にかみんないなくなった。昔、彼女は言っていた「みなさんと出会えて幸せです。」心から出た言葉だったと思う。それなのに、もう居ないなんて。きっと俺がそんな境遇にあったら忘れたくなるかも知れない。大切だと思った瞬間、いなくなってしまうのだから。伝えられるなら文句の一つくらいあるんじゃないか、そう思い、それがそのまま口に出た。

「わたし、は」

視線を少し落とした。けれど直ぐにまた交わった。



「たった一度でも彼らに会えるのならば、」
「──…ありがとうと、伝えたいです。」



彼女は一番綺麗に笑いそう言った。吸い込まれるような真っ直ぐな眸に全てを捕えられた錯覚を起こした。

「最初から最後まで、何もかもひっくるめて、ありがとうって云いたいです。」

どうやら、自分は何か勘違いをしていたらしい。彼女はそういう人だった。

「……そうか…」

自分から聞きだしたくせに、何かが溢れそうでそれしか言えなかった。全てが終わった、穏やかで泣きたくなる時間だった。


20090815
四万thanksフリー小説


title:徒花






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朝夷さまのサイト『domino』四万打フリーをいただいてきました。

『はらり』を題材にかかれたそうです。
作中で“穏やかで泣きたくなる―”とありますが、読ませていただいたときまさにそんな心情で、その雰囲気に鳥肌が立ちました。

素敵なお話をありがとうございます!四万打おめでとうございました!


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