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12/32 『書き納め』 コンタクトレンズをつけ始めたのは、高校を卒業する間際になってからだった。 座席の配置と、高校進学を機に作ってみた眼鏡を武器に、何とか二年半以上もの月日をやり過ごせていた。 視力が悪いといっても友人の顔の見分けだって簡単につくし、授業にもさほど影響は少ない。 受験生として迎える二度目の冬、増え続ける学習時間に比例するように、少しずつ視力は落ち込んでいたのだ。 それでもあまり気にしないようにして迎えた私大一般受験、そこで私は洗礼を浴びることになった。 試験内容ではない。 試験会場に行くまでの経路だ。 地元の駅と違っていくつもの電車の乗り場があり、数分単位で電車が行き来する大都会での一幕。 電光掲示板に走る文字や数字が、どんなに目を細めても、正確に読み取れなかった。 焦った。 化学式を答える問題の指名を順不同で受けたときよりも焦った。 幸い、何とか目的地までたどり着くことはできたのだが、受験よりも何よりも、返ったらまずは眼科にかかろうと思った。 眼鏡の度は、もうずっと合っていなかった。 数日のうちに、コンタクトレンズが届いた。 恐る恐る着用し、それから世界の見え方が変わったことに、やはり驚愕した。 色彩が鮮やかだった、友達の笑顔が眩しすぎた、見過ごして来た校舎内の一つ一つが、何だか愛おしかった。 いつもと違うねー、コンタクトにしたんだよー、俺はわーちゃんの眼鏡姿も最高だと思っていたのに! …………よくわからないコメントも届いたのを覚えている。 それから、地元を離れて大学に進学して。 高校生よりも少し大人になって、でも高校生の頃のような馬鹿馬鹿しさがどこか欠けているモラトリアム期間をほどほどに楽しんで、そのまま地元に帰らず就職をして。 変わらず、ずっとコンタクトを愛用している。 「ごめん、年末はやっぱり帰れそうにないかな。明けてからなら………新年会のプランはないの?」 電話向こうで、高校時代からの付き合いである可愛らしい友人の慌てふためく声に耳を傾ける。 一生懸命な子だ、私の冗談のような言葉にも一生懸命に答えてくれる。 抱えた仕事の案件など放り出して、最終電車でも何でも捕まえて、件の忘年会とやらに参加できたらどれだけ心地良いことだろう。 もちろん、現実にはそんなことができる勇気も度量もキャパもなく。 雑踏の中に消えゆく足音を捉まえるように、少しスマホを握り直した。 「え? 聞きたいこと? ……あぁ、黒羽くんの。や、うん、いいよ、うん……ぇ? あはは、別に面倒くさがってないって、うん。新年にやることだよね。そうだなぁ」 青く点滅する横断歩道に足を止める。 どうやら出血の確認に加えてアンケートもあったようだ。 新年にやること。 初詣に行ったり、お汁粉を食べたり。 思いつく内容を上げていけばキリがないし、段々と自分の中でスイッチが入ってしまい、たくさんの言葉を浴びせてしまうような気がして、ぐっとこらえる。 何か一つだけ、せっかくだからあまり多くの人がやっていなそうなこと。 「…………何でもいいんだよね? うん、そうだよね。それじゃあね、私の新年にやることは」 コンタクトレンズを、新しくすること。 古いものを捨て、新しいものを使い始める。 たぶん、日本中でたくさんの人がやっているであろうことだ。 私はそれを、コンタクトレンズで続けている。 本当に、大した理由があるわけじゃない。 さっき言ったことが全てだ。 でも、その一つの作業が、今となっては私にとって、とても大切な節目となった。 「面白味もなくてごめんねー、あはは、そんなことないよ、ありがとう。それじゃあ、また、連絡するね。うん。ありがとう、良いお年を」 再び歩きながら、年の瀬の挨拶を口にする。 一度ぎゅっと目を瞑り、見開いた街並みは、クリスマス直前の明るさが際立つようだった。 ‡ ‡ ‡ 続きは? 落ちは? と永遠さんも気になっているところですが春風さんってば話を終わりにしようとするのでこちらも観念した次第であります。 投げっぱなしジャーマンです。 …………え? 今日? 今日は12月32日ですが、何か? あー、はいはい、明けまして的なね? いや、うん、分かりますよ、分かります。 でもなんつーか永遠さんの地元的には今日が師走のクールダウンデーというかいきなり走るの止めたら体に良くないだろうなとかそんなわけでギリギリ年内です。年内です! 年内なんですー! というわけでいろいろありました2020年、始まる新しい一年でも、またここで皆さんにご挨拶できたらと思います。 P.S.1『よいお年を!』 ■MENU □FIRST □BBS □TEXT □LINK □CLAP ←Re 携帯小説ランキング ●NovelーLine● [管理] |