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夢を諦めることが大人になることなら、大人になんてなりたくない。
夢みることを忘れるぐらいなら、子どものままでいい。







「………って」

「我慢しなさい。あたしはチョッパーと違って優しくしないんだからね」


俺の頬に大きなガーゼを貼り終えると、ナミは呆れたように俺を睨む。
その表情は怒っているようで、泣き出しそうな、俺がケンカをして帰ってきたときに見せる、いつもの表情だった。
今回のケンカをしたことを、間違っているとは思わない。
でも、ナミの顔を見ると少しだけ罪悪感が出てきてしまう。


「あたしに何か言うことないの?」

「…手当て、ありがとう」

「チョッパーがいないから仕方なくよ」

「うん」

「他にあるでしょ?」


本当はわかってる。
ナミはこうきいてる。

『なんでケンカしてきたの?』

俺は、理由がなければケンカなんてしないし、それはナミも信じてくれてる。
だからこそ、気になるんだろう。
こんなにもケガして帰ってくるぐらいのケンカの理由は、一体何なのか。


「言えないの?」

「…」

「それとも、言いたくないの?」


そんな、傷ついたような顔をしないでほしい。
まるで俺がさせているみたいだ。
…実際俺がさせているのか。
させたくなんか、ないのに。





「…夢を、笑われたんだ」

「夢を…?」



いや、違うな。
夢自体を笑われたわけじゃない。




「夢をみることを、笑われたんだ」





誰かが言った。
夢なんて、所詮叶うはずがないのだと。

誰かが言った。
夢なんて、みるだけ無駄なのだと。

誰かが言った。
夢なんて、1人じゃ何もできないガキが抱くものなのだと。





「悔しかったんだ。馬鹿にされたこと、我慢できなかった」



ナミやチョッパーから散々言われてた。
1人でいるときには、ケンカを買うな。
余計なケガを増やすな、と。
事実、このとき近くにはゾロもサンジもいなくて、1人で何十人もの海賊たちを相手にするはめになった。
負けることはなくても、ナミに心配させるようなケガを負ってしまった。


「ケガしたことは…悪かったよ。でも俺、ケンカしたことは謝らねぇから」


…口先だけなら、いくらでも強がることはできる。
言葉は強気でも、ナミの目を見て言うことはできなかった。
今、ナミはどんな顔してる?
ケガして帰ってきたくせに、偉そうに謝らないなんて言った俺に、怒ってるかもしれない。
呆れてるかもしれない。
また単純なやつだと思われただろうか。
それでも…仕方ない。





ぽんっ





…ふと、頭の上にあたたかさを感じた。
くしゃくしゃと、髪を撫でられる。
そのあたたかさの正体は間違いなく目の前の彼女の手の平で。
俺は、そっと顔を上げた。



「おつかれさま」



ナミは、笑っていた。
俺の大好きなお日様みたいな笑顔とは違う笑顔。
慈しむような、優しい笑顔。


「間違ってない」


頭を撫でられるなんて…いつ以来だろう。
とてつもなく久しぶりな気がする。
シャンクスか…それともエースか。
面影が、瞳の奥でちらついた。


「ありがとう。あたしたちみんなの分まで、怒ってくれたんだよね」


夢をみることを馬鹿にされたということは、仲間たち全員を馬鹿にされたということだ。
俺も、ナミも、みんなも、自分の夢を叶えるためにここにいる。
夢をみるというのは、ベッドの中で空想しているわけじゃない。
叶えたくて、手にしたくて、果てまで行きたくて、進んでいるんだ。
それを笑われたのが許せなかった。
だって俺たちはみんな、夢をみていたいから。


「夢を追いかけることを、諦めたことなんてないよ。諦めるつもりもない」

「…それが、子どもじみててもか?」

「あんたと一緒よ。夢を捨てることが大人になるってことなら、ずっと子どものままで構わない」


ニッと笑うナミを見て、俺はようやく笑うことができた。
良かったと、そう思った。
ケンカしたことを?
ナミに話したことを?
たぶん、両方だ。


「そんな理由なんかで、大人にならないで」

「ならねぇよ。なりたくもない」


うん、と頷いたナミは、また俺の髪を撫ではじめる。
どうにも照れくさくて、頬をかこうとしたらそこは殴られた場所で、チクリと痛みが走った。
でもこの痛みが、信念を曲げなかったことによってできた痛みなのだと思えば、不思議と安らぎすら感じた。



「夢を、追いかけていたい。ずっと」



それは揺らぐことのない、確かな想い。
永遠に変わることのない、確かな願い。











永遠の少年






ここにいる意味を、思い出したよ


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