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生まれてはじめて、恋をした。
…かもしれない。
かも、がつくのは自信が持てないから。
だって私は、こんな気持ち、知らない。


「ナミ!」


呼ばれる声に振り向けば、何がそんなに楽しいのか、にこにこと嬉しそうにルフィが走ってやって来た。
さりげなく、体を横にずらしてスペースをあける。


「雪は降らねぇのか?」

「これだけ晴れてるから、降りそうもないわね」

「ふーん。じゃあ、次の島まであとどれぐらいだ?」

「昨日出発したばっかりだし、きっとまだまだ先よ」

「へー。ナミはすげぇな。何でも知ってる」


私じゃなくてもわかるようなことばっかりだけど、と思いながらもそのことには触れないでおく。
嬉しいじゃない、褒められたら。
素直にありがとうと言って、笑ってみせた。


「ナミが航海士で良かったなー」


さらりと言うから、困る。
どんなリアクションを取ればいいのか、わからなくなってしまう。
当たり前よ!と強気で言ってみる?
馬鹿じゃないの?と呆れてみせる?
もう一度ありがとうと、笑ってみようか。


「…あたしも、ルフィが船長で良かった」


自分の口から出てきたのは、そんな言葉。
はっと気づいて慌てて口を両手で押さえた。
ちらりとルフィを見れば、驚いたようにポカンと私を見ている。
しまった。
こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。


「ご、ごめん。何でもない。今の、忘れて!」


嘘をついたわけじゃない。
むしろ本音だ。
だからこそ余計に恥ずかしい。
私、こんなこと言うキャラじゃないし。
おかしいに決まってる。


「いや、忘れない」

「え!?なんで!?忘れてよ!」

「忘れねぇよ。俺、嬉しかったから」


はにかむルフィに、私は自分の頬が熱くなるのを感じた。
でも照れる様子も恥ずかしがる様子もないルフィを見ているうちに、心の奥のほうが冷めていく。


「俺達、同じ気持ちだな!」

「…そうだね」


本当は、ちょっと違うんだよ、ルフィ。
ルフィは純粋に仲間として、航海士が私で良かったって言ってくれてる。
それはもちろん嬉しい。
だけど、あまりにもまっすぐすぎて、ちょっぴり痛い。
私は仲間としてだけじゃなくて、それ以上の意味で言ったから。
…きっとね。
自信はないけど、きっとそうなんだろう。
じゃなきゃ、こんなにも心が氷のように冷たくなるわけがない。


「ね、もしあたしがこの船からいなくなったら…困る?」

「…降りるとか言うなよ」

「本気じゃないわよ。もしもの話」

「もしもでもそんなこと言うな!困るに決まってんだろ!」


腰に手をあてて、拗ねたようにこちらを睨むルフィ。
…ちょっと失敗。
怒らせるつもりも、不安にさせるつもりもなかった。
一言、ここにいていいんだって、言葉が欲しかっただけなの。


「…ごめん。もう言わない」

「んん。わかってくれりゃいいんだ」


ルフィは途端にぱっと笑顔になる。
私もほっと胸を撫で下ろした。
ルフィに嫌われてしまったら、もうここにはいられない。


「航海士は探せば見つかるかもしれねぇけど、ナミはここにいるナミだけだからな!」


他意がないことはわかっている。
それでも喜んでしまう私は、愚かなのだろうか。
私にいてほしいと、ルフィは言ってる。
そう受けとっても、いいのかな?


「ずっといろよ、ここに」


はじめて、ちゃんとわかったような気がした。
ルフィが好きなんだって。


「…うん、いるよ。ずっといる」

「おう、そうしろ」


まあ、わかったところで、どうこうするつもりはないんだけど。
やっとわかった自分の気持ちに向き合う勇気も、それを伝える度胸も、私は持ってなんかいない。
幸せな未来を想像するのは簡単だけど、辛い未来を受け入れるのは簡単なことじゃない。
だったら私は、不確かな未来の幸せよりも、確かな今の幸せを選びたい。
仲間である、私達の幸せを。


「あたしは、ルフィの仲間だから」


そうだなと頷くルフィの笑顔を見ても、心穏やかにいられる自分にひどく安心した。













変わらないままで






変化を望めるほど、強くなかった


『ル←ナミ(秘密の片思い)』
[紗羅様へ/参拾萬打企画]





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