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携帯電話と睨めっこ

 黙り込んだまま、ぐっと握り締めて、じっと見つめる。手の中にあるのは壊れた携帯電話。否、壊した、が正しいか。
「気になるなら帰ったらどうですか?」
 帰ったら確実に地獄絵図である。いや、そもそも。
「それ、わざわざ来た恋人に言う言葉?」
「隠れ蓑に出張先にまで押しかけるのもどうかと」
 追跡防止に携帯まで壊して。そうつけ足す骸の服を、握り締めた。携帯電話はまだ手元にある。
「だって」
 我儘だという自覚はある。きっと今はアジトは混乱していて、でも。
 アイタクテ。
「まだまだ子どもですね」 伸ばされた手が、幼子をあやすように頭に触れる。
「いいよ、子どもで」
 拗ねた言い方だけれども、頭を撫でられる心地良さに浸って目を閉じた。
 ピリリリ……
「っ!」
「はい、何かありましたか?」
 反射的に身を縮めた俺の隣りで、骸は穏やかな口調で自分の携帯電話に出た。
「……いえ、こちらにはいませんが。なんなら、僕も動きましょうか?……そうですか。では、これで」
 会話が、終わる。
「そんなに怯えなくても」
「……条件反射だよ」
 げんなりして呟くと、聞き慣れた骸特有の笑い声が耳に届く。
「笑うなよ、こっちは必死なんだから」
「すみません、でも可愛らしくて」
「二十歳過ぎてる男に可愛いっていうのもな……」
ぶつぶつ呟いて、手元の携帯電話を思い出す。黙り込んで、じっと見つめて、ぐっと握り締めて。
「それはそうと」
 骸が中途半端に言葉を切った。その先を黙って待つ。
「その携帯電話、僕が壊していいですか?」
「もう壊れてるんだけど?」
「木っ端微塵に」
 とてもさわやかな笑顔を見た。反射的に鳥肌が立つ。
「だって憎らしいじゃないですか。僕よりも綱吉の心を掴んで」
「……二十歳過ぎて嫉妬深いのも問題だな」
 ぼそりと仕返しを呟けば、頭を抱き寄せられて、すかさず額にキスされた。
「愛しています、僕の綱吉」
 それと同時に、手の中の携帯電話がするりと奪い取られて、ゴミ箱に投げ込まれる。
「所有格つけなくても、俺の気持ちは変わらない」
「知ってます。つけたいからつけるんです。僕は嫉妬深いので」
 骸の返答に、綱吉は小さく破顔した。

 携帯電話と綱吉。
 睨めっこは携帯電話の勝ち。





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