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泣かせないで、その空を



どうか、あの空を壊さないで。
あの人を―

美しいオレだけの空を泣かせないで。





ボンッ!

モクモクとあがる硝煙。

(そうか…オレ、アホ牛の十年バズーカで…)

急にやって来たところに獄寺とケンカになったランボが十年バズーカを撃つ。
それはいつものことだが、それが獄寺に当たるなどと一体誰が予想していただろうか。

(っつーコトは、十年後の世界か…?)

段々と消えていく煙のおかげで獄寺の視界がハッキリしてくる。
そこは見知らぬ広い部屋だった。

(十年後のオレはここに居たのか…)

単純な好奇心で部屋を物色する。
自分がどんな生活をしているのか気になっていたからというのは表向きの理由であり、
実際はある人の影を探していた。

(十代目、は…)

十年経っても自分はあの人の側に居られているだろうか、
自分はあの人に必要とされているのだろうか。
そんな心配が獄寺の胸に積もった。

そんな時。

「獄寺君!?大きな音したけど大丈…」
「十代目…!!」

間違いではない。
見間違えるわけがない。
少し高くなった背、反対に少し低くなった声。
その人は、間違いなく自分の愛している人の面影を残していた。

「あ、えっと…十年前の獄寺君…だよね。スーツ着てないし。」
「は、はいっ!」
「あはは、そんなに緊張しないでよ。やっぱり幼いなー、今の獄寺君とは大違いだ。」

オレなんか十年経っても変わらないと思うけど、と少し自嘲気味に笑う綱吉。
そんな綱吉の顔を見て、獄寺は一つ胸に疑問を抱いた。

「…十代目、もしかして先程まで泣いていらっしゃいましたか…?」
「なんで…」
「眼が、腫れていらっしゃるので…」
「っ…そんなこと…」

腫れた眼をそらす綱吉。

「十代目。」

オレを、見て下さい。
優しい声で、眼差しで、そう言った。

「何が…あったんですか…?」
「ごくでら…くん…」

ぎゅ、と獄寺に抱きつく綱吉。
じわ…と綱吉の涙が獄寺の服にシミをつくった。

そして、ゆっくりと綱吉は話し始めた。
先程、十日ぶりに獄寺が出張から帰って来たこと、
その獄寺が負傷をしていたこと、
しかし当の本人は大丈夫です、と一言言って自室へ行ってしまったこと。

「獄寺君の腕も足も傷だらけで…本当に辛いのは獄寺君自身だっていうのに、すごく辛くて、涙が止まらなくて…」
「十代目…」
「守りたいのに…オレは何にも出来ない…」

ひっく、と綱吉から嗚咽が漏れる。

「十代目…貴方はオレを守ってくださっています。今も、十年前も。」
「本当に…?」
「えぇ。…十代目。貴方はオレにとっての空なんです。貴方はオレという世界を支配していて、貴方が居るからオレは貴方の所へ帰って来られるんです。」
「空…」
「はい。…大丈夫っス!後で十代目に無礼な真似をしたお詫びとして自分自身を殴っておきますから!」
「ちょっ…駄目だってば!」

本当に変わらないな、獄寺君は。
くすくす、
目に涙を浮かべたまま綱吉が笑った。

(あぁ、この笑顔を共に溶けてしまえたら…)

急に愛しさが込み上げてきた獄寺はぎゅっ、と綱吉を抱き締める。

「じゅうだいめ…好きです、愛してます。」

言い慣れていて、それでもってありふれている言葉。
しかし、二人にとってはいつだって神聖で新鮮な言葉だった。

「獄寺君…」

獄寺の背中に回される綱吉の腕。

「オレ、も好きだ…愛してる…何年経っても君を愛してる…」

幸せ、だった。
十年の差があっても二人の距離は変わっていなかった。
その事実が嬉しくて、嬉しくて。

ちゅ、

そっと綱吉の手をとり、手の甲にキスを落とす。
―手にするキスは忠誠の証。
愛しい人の温もりを感じながら、獄寺はゆっくりと目を閉じる。

(なぁ、十年後のオレ。
ぜってーもう十代目を泣かせんなよ。
お守りするんだ。
帰ってくるんだ、オレの空に。

だから…

泣かせないで、その空を。)

そう自分自身に呟き、獄寺は静かに訪れるタイムリミットを待った。







あきゅろす。
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