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夏、真っ盛りの灼熱の太陽の中、俺は古泉を荷台に乗せて自転車を漕いでいる。

ミンミン、と命を削り続ける蝉の鳴き声は真夏にお約束のBGMだが、ジリジリと肌を刺激する日差しの助けを借り、安々と体感温度を2、3度上昇させる。

8月に入り、夏休み真っ只中の俺達。
有り難いことに、SOS団の活動にも1週間程の休暇を貰った俺と古泉は、せっかくなので二人きりで出掛けることにした。


目的地は古泉の住んでるマンションから自転車で20分程走った所にある公園。
この暑いのに公園デートは無いだろと、反対はしたんだ。でも、自転車二人乗りで出掛けたいなんて、古泉が言うもんだから…
自転車で行けるくらい近場な所なんて限られているからな、仕方ないが、消去法で公園へ行くことになった。


「…大丈夫ですか?やっぱり僕がこぎますよ」
「はぁっ、はぁ…やだね、お前は黙って後ろに乗ってりゃいいんだ」


何故、俺が自転車をこいでいるのか。そんなの、俺が黙って古泉の後ろに乗ってるのが嫌だったからに決まってる。
言い出しっぺの古泉からの提案は「僕がキョンくんを後ろに乗せて二人乗りがしたい」だった。
それを承認して古泉にこがせておけば、今頃は荷台に座って楽が出来た。だが、イケメンに自転車をこいでもらって後ろに座ってるだけの男なんて、見るからにカッコ悪いだろ。
そんなのは絶対に嫌だった。
そんなんだったら、イケメンを後ろに乗せて必死にペダルこいでいた方が、パシリに見えようが何だろうが、マシに決まってる。
男としての意地だ。何とか古泉を説得して今に至る。

「おい、坂道下るから…ちゃんと捕まってろ」
「はい、大丈夫です。何だかキョンくん、かっこいい」
「あぁ、サンキュー。見直したか?俺だってやるときゃ、やるんだぜ」


この長い、長い下り坂を下れば公園まではあともう少しだ。
坂道なんて冗談じゃない、でも…こうやって後ろに古泉を乗せ、ブレーキをいっぱいに握りしめて、ゆっくりゆっくり、下り坂を下っていくのも、たまには悪くないな、とも思う。

俺の腰に回されている腕と、背中に感じる普段よりも少し熱い古泉の体温。
後ろに乗っている古泉の表情は見える訳がないが、幸せそうなにやけ面で俺に身体を預けているのを想像したら、気温と一緒に…何だか胸まで暑くなった。

体に感じる風は生ぬるいし、背中は汗だく…

正に、夏だな。

「公園に着いたら自販機で飲み物を買って、木陰で休憩しましょう」
「あぁ…お前のおごりでな。」
「ふふっ、お安い御用です」
「あと、やっぱり帰りはお前がこげよ」
「もちろん、任せて下さい!この坂道、キョンくんを後ろに乗せて昇ります」
「馬鹿か、坂道は後ろから押してやる」


坂道を下りきり、公園に到着すると、直ぐに揃って自転車から降りる。さわやかな顔で汗ひとつかいていない古泉と、汗だくの俺。
「お疲れ様です」なんて言いながら俺の頭を撫でる手を掴むと、同じように熱くて、そのまま指を絡めて手を繋いだ。
俺から手を繋ぐなんて滅多にない事だから、珍しいですね、なんて言われたけど、今はお互いの手の平の温もりが混ざり合う感覚を楽しみたくて、離さずにそのままで居てやる事にした。



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