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バタンッ、と乱暴に音を立てながら玄関のドアを締め、脱ぎ捨てた靴を揃えることなくリビングに学生鞄を放り投げる。全て締めるのも煩わしくチャックが半開きになっていた為、優等生を演じてわざわざ持ち帰っている教科書やノートが部屋に散乱した。
我ながら、普段の“古泉一樹”からは考えられない行動だとは思うがそんな事は知ったことか。
憂さ晴らしのつもりで物に当たるように振舞ってみたものの、気持ちが晴れる訳もなく、余計に虚しい気持ちに拍車が掛かるだけ。
何故だか自分でも解らないことなのだが、ここのところ、僕は彼に対して苛立ちを感じてばかりいる。
生理前の女性のような、はたまた、僕のような思春期真っ只中の高校生が両親に反抗するような・・・理由は解らないにしろとにかく何かにつけて腹が立つし、加えて普段以上にネガティブでマイナスな方向にばかり頭がいく。

「僕ばかり、こんなにも考えて、馬鹿みたいだ…」

理由は解らないと言ったが、何が発端でこんなにもイライラしているのかと言うと原因は明確で、本当に些細なこと。
僕が彼に話しかけた際や休日のデートの約束を取り付け予定を話し合っている時などの返答、下校時の仕草…彼の行動ひとつひとつが本当に面倒くさそうな雰囲気を醸し出していて、それが最近、気になって仕方がないのだ。
元々、彼はお世辞にもテンションが高いタイプとは言い難いし、どちらかと言えば面倒くさがりで大雑把、涼宮さんの様に自分の感情をダイレクトにぶつけてくるなんて事はありえないし、僕のようにデレデレと愛情表現を露にする事は世界が改変されるレベルでありえない事である。そんな彼の性格は十分に理解しているつもりだ。
彼が相当の照れ屋で、普段は釣れない事ばかり言ってくるものの心の中では僕のことを思ってくれているし、心を許してくれている。
彼に二面性はあまり無いのだが、心を許してくれているからこそ、面倒だとか、気だるい気持ちや仕草だとかを表に出して、ありのままの姿で居てくれてるなんて事は解り切っている。
解り切っているのだが、謎の精神不安定症候群に襲われている僕にはどうしても悪い方へと考えてしまう。

本当は僕と話すのが面倒くさくてしょうがないんじゃないか…

僕と出かけるのが嫌ならそう言えばいいのに…

僕の事よりもそんなことを優先させるのか…

もっと楽しそうに話して欲しい…

考えれば考えるほど自分の勝手さが余計に嫌になる。
もう嫌だ、一層潔く別れてしまいたい。
そうすればこんなにも彼に振り回される事は無くなるし、楽になれるに決まってる。
そんな事、解りきっているのに、

解り切っているのに、


それなのに、どうしてもそれだけは出来ないし、したくないのだ。
こんなにも彼にイライラと腹を立てているのに、別れを切り出せない程に、僕は完全に彼に依存をしてしまっている。
結果的に彼が愛しいという気持ちが全てを許してしまうのだから、病的だと思う。


ヴーッ…ヴーッ…

静かな室内に鞄から飛び出して床に転がっている携帯のバイブ音が響く。
煩わしく感じながらも、重い腰を上げて立ち上がり携帯を拾って開くと、ディスプレイに表示された彼の名前を見て自然と口角が上がる。
通話ボタンを押した途端に響く彼の声を聞くと先程までの苛立ちは何処へやら…
みるみるうちに和らいで普段の“古泉一樹”に戻っていく。

僕の心を掻き乱すのも彼だが、反面この上ない程に癒してくれるのも彼なのだ。

「キョン君…今すぐに会いたい」

「…お前ん家、行ってもいいか?」

「もちろん、お待ちしていますよ」

約束を取り付けて電話を切ると、いそいそと散乱した教科書を片付け始める。
この時間に来るならお泊りセットを持参してくれるのではないだろうか。
明日の不思議探索は二人で向かうことにしよう。
そんな事を考えながら片付けを終えると、コーヒーを淹れる為にお湯を沸かし始めた。

静かな部屋にインターフォンが鳴り響くまであと少し…


**
おかしいなぁ、病んでてネガティブなまま終わらせようと思っていたのにいつのまにやらこんなことに。

2012.4.2


あきゅろす。
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