彼女は泣かなかった。 ただひたすら前だけを見て、そして進む事だけを望んでいるようだった。 後ろを振り向いてはいけない。 例え、誰かが倒れようとも。 前だけを向く。 ひたすら、進む事を考え、そしてひたすら信じ続けろと。 己に言い聞かすようにも見えた。 「先輩」 声をかけた譲に、彼女は顔を向ける。 昔から見ていた顔付きとは違い、精悍で、美しいとさえ、思ってしまいそうだった。 戦女神だと言われたのに、妙に納得してしまう。 彼女は一度だけ笑みを浮かべた。 そして仲間を一巡見渡してから、小さく頷く。 言葉は要らない気がしていたからだ。 一歩、踏み締める。 一歩、歩みを止めやしない。 逆鱗が哭く。 その叫びに似たその渦に、聴覚は奪われてしまいそうだった。 でも彼女は前だけを見ている。 何故だろう、その姿は、譲も知らない姿と横顔に見えた。 彼女の戦いを見た兵士達の中には、少なからず快く思わない人間も居た。 けれど彼女の戦う姿に、冷たい女だとも言う者達も居た。 戦女神とは良く言ったものだと、けなす者も居た。 だがそんな事を言われても、彼女は前を向くだけだった。 「行くよ!みんな!」 彼女は振り向かない。 けれどその声は仲間を信じきっている声だった。 彼女は振り向かない。 前に進んで運命を変えると、決意していたからだ。 幾つもの屍を見て来た。 幾つもの痛みを知って来た。 あの運命を乗り越える為に、彼女は泣かない女になった。 譲はもう一度名前を呼ぼうとした。 けれどそれは言葉にはならなかった。 ただ彼女の背中に視線を遣って、譲は一度だけ瞼を閉じる。 そして彼女が歩みだすのと同じように。 ただ前だけを見た譲は、一歩を踏み出すのだった。 War goddess >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> 彼女の背中に、譲は想いを馳せるしかなかった。 譲と神子。 どっちかというと×より+ってイメージ。 最終決戦目前、の感じで読んでください。 War goddess “戦女神” [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |