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いつもお世話になっている『すいか記念日』の和さんより、以前描いた“IH Week”のイラストを元にしたお話を頂戴しましたので、イラストと一緒にこちらに掲載させていただきます。
どうぞお楽しみくださいませ。

イラスト:框
SS:和さま

・・・・・


Day 1-Five Lifetimes,One Love



「…良かった…。」

六花の力で、黒崎くんの手首の傷が癒えていく。
心なしか、彼の寝顔もさっきより穏やかになった気がする。

「…黒崎くん…。」

きっと、彼はこれからもこの手で、多くのものを護っていくんだろう。

それを、彼の傍で支えることはもう出来ないんだ…そう思うと、少し悲しいし、悔しいけれど。

私は私なりの方法で、黒崎くんを護ってみせるから。

「…大好き…。」

私の想いは、アナタには届かなかったけれど。

私の初恋は、実りはしなかったけれど。

でも、これだけは胸を張って言えるよ。

「黒崎くんを好きになって、良かった。」

こんなにこんなに大好きになれる人に巡り会えた私は、間違いなく幸せだ。

…だから。

どうか「この次の人生」も、彼に巡り会えますように…。





(それは、1人の少女の密やかな決意と願い)



白い月だけが、全てを見ていた。




***********


Day 2-Black and White



落ちていく。
堕ちていく。

それは、私が罪深い人間だから。

「…いの…え…。」

黒崎くんの声…?

ごめんね、ごめんね黒崎くん。

結局、私はアナタを護れなかった。

私はアナタを…大切な人を、場所を護りたくて、ここへ来た筈なのに。

私の力で、全てを元に帰すつもりだったのに…。

「井上…!」

遠のく意識の中、微かに聞こえる黒崎くんの声。

ごめんね、ごめんね黒崎くん。

私を護る為に…沢山傷ついて…なのに私は、何も出来なくて…。

強くなりたかった。
アナタの役に立ちたかったの。

朽木さんみたいに…。






落ちていく。
堕ちていくの。

暗闇に溶けることも出来ず。
闇の底へ辿り着くこともないままに。

深い、どこまでも深い闇の中へ。

私、は…。

「井上!!」
「黒崎くん…?」

ぐっと、強く腕を引かれて。
ゆっくりと目蓋を上げれば、暗闇に溶ける死覇装と、太陽の様に眩しくて鮮やかなオレンジ色。

「行くな…行くな、井上!!」
「黒崎くん…!?」

どうして、ここへ…?

「オマエは俺が護る…そう約束しただろ?」
「…で…も…。」
「だから、俺の傍にいろ。やっと取り戻したんだ…俺の…太陽を…。」

太陽…?
違うよ、太陽は黒崎くんだよ?

眩しくて…熱くて…力強い…オレンジ色の太陽
…。

「井上は、太陽だ。明るくて…優しくて…暖かい、俺の太陽だ。」
「黒崎…くん…。」
「だから、沈ませない。オマエは…ずっと俺が護る。護りたいんだ、この手で。」
「…うん…。」
「一緒に行こう、井上。」





暗闇から、陽が昇る。


それは、互いに惹かれし2つの太陽。




***********


Day 3-Rain



…雨は嫌いだ。

「…井上?」

こつり…不意に感じる柔らかな衝撃、僅かな重み。
隣を見れば、井上の胡桃色の頭が俺の肩に乗っていた。

下校時間に突然降り出した雨に、急遽図書室で時間を潰すことにした俺と井上。

長椅子に、2人並んで腰掛けて。

しばらくはお互いに本の世界に浸っていたけれど、静かな雨音はいつしか井上を眠りの世界に誘っていたらしい。

「…しょうがねぇな。」

そう1人呟いて、落ち着き払ったフリをして見せるけれど。

ふわりと漂ってくる甘い香りと、じわじわと温もりを帯びていく己の左半分に、本当はうるさい程に高鳴る鼓動。

でも…嫌じゃない。

こんな感覚も。
こんな自分も。

「まだ…やみそうにねぇな。」

ちらりと窓の方を見れば、無数の雨粒がカーテンの様に映る世界を滲ませている。

雨は嫌いだ。

…けれど、今はまだ止まなくていい。



(もう少しだけ、このままで)



雨に対してこんな感情を抱く自分なんて、こんなに誰かを好きになれるなんて、想像もしていなかったのに。




***********


Day4-Alternative World



「ごめんね黒崎くん、もう痛くない?」
「うん…ぐす。」

わたし、手合わせでまた黒崎くんを泣かせちゃった。
よけてくれると思ったのに…黒崎くんの顔面に、わたしのパンチが思いっきり入ってしまったの。

「はい、これでもう大丈夫だよ。」
「ぐす…ひっく…ありがとう…。」

痛いって言う手首に湿布を貼って、赤い鼻は保冷剤で冷やして。
ようやく泣き止んだ黒崎くんに、わたしはにっこりと笑いかける。

「でも、黒崎くんって強いよね。」
「へ?」

わたしのその言葉に、不思議そうな顔をする黒崎くん。

「だって俺、井上に負けてばっかだぜ?」
「うん、黒崎くんってよく負けるし、すぐ泣くよね。」
「う、うう…。」
「あ、泣かないで!でも、それなのに絶対に稽古は休まないでしょう?だから強いなって思うの!」

わたしがそう言えば、黒崎くんは赤い鼻をこすりながらムンッと胸を張った。

「だって俺、強い男になりたいんだ!」
「ふぅん。」
「で、母さんを護るんだ!」
「そっかぁ!お母さんが大好きなんだね!」

いつも、お母さんのお迎えすっごく嬉しそうだもんね。
納得して手をパチンと打ち鳴らすわたしに、黒崎くんはぷいっとそっぽを向いた。

「…オマエも…。」
「え?なぁに?」
「…俺、いつか絶対井上より強くなるよ。」
「うん!頑張ってね!」
「…そしたら、オマエも俺が護ってやるから。」
「うん?」
「だから、さ。いつか、俺がオマエより強くなれたらさ。」






(俺の、お嫁さんになって。)




それは、泣き虫な男の子の淡い初恋。




***********


Day 5-Official Artwork



「…で、ここは腕を真っ直ぐ…。」
「こ、こう?」
「おう。」
「ねぇ黒崎くん。チャイナ服って素敵だけど、カッコいいポーズを取るのって難しいね。でも、せっかくのカラー扉絵だし、頑張らなくちゃ!」
「…あのさ、井上。」
「なぁに?」
「そのチャイナ服、すげぇ似合ってるんだけど…他のはなかったのか?その…スカートが短すぎて、脚を上げるとだな…ごにょごにょ…。」
「えーと…一応、ロングスカートっぽいのもあったんだけどね?」
「あったのか!?」
「うん…でもその代わり、胸の部分が大きくハート型に開いてたの。」
「…………。」
「浦原さんに『どっちがいいッスかぁ?』って聞かれて…こっちに…。」
「…畜生。」



(俺だけが見るなら、何の問題もねぇんだけどな)



眩しすぎる絶対領域。




***********


Day6-Fighter and Healer



「…はい。もう大丈夫だよ、黒崎くん。」
「ああ、いつもありがとな、井上。」

私の双天帰盾が、黒崎くんの傷を癒やす。
こんなことしか出来ないけれど…黒崎くんが私を必要としてくれるなら、それだけで幸せだから…。

「全く学習能力のない男だな!」
「うわっ!な、何だ!?」
「舜桜!?」

突然、キュンッ…と六花から光が走って。
ヘアピンに戻った筈の舜桜が、再び私達の目の前に現れた。
しかも怒り心頭、「もう我慢できない」って顔をしてる。

「毎回毎回、こうしてケガをしては織姫に治癒させて…一体織姫を何だと思っているんだ?便利な薬箱と勘違いしてるんじゃないのか!?」
「そ、そんなつもりは…。」
「しかも、いつも織姫がどれだけ心配して心を痛めているか…考えたこともないだろう!?」
「や…その…。」
「い、いいのよ舜桜!」

舜桜のお説教に、バツが悪そうに頭を掻く黒崎くん。
私が慌てて止めに入ろうとすれば、キンッ…とヘアピンからまた一筋の光。

「おう、全くだぜ!」
「つ、椿鬼!?」
「しかもコイツ、超ヘタレでクソ鈍くてよ。おい、もうこんな男やめて、他のに乗り換えたらどうだ?」
「えええっ!?」

やだ、そんな言い方したら、私が黒崎くんを好きなのがバレちゃう!

「それとも何か、この男はオマエがエロい格好した日には『よく似合ってるぜ、抱いてやろうか?』ぐらい言えるのか?あ?」
「椿鬼、もうやめて〜!!」






(小さな応援団は、激鈍主人公にそろそろ我慢の限界です)



「な、何だよコイツら、訳分かんねーんだけど…。」
「………。(←冷ややかな眼差しのあやめ)」




***********


Day 7-Tanabata



「あ〜、疲れた。天の川を泳いで渡るの、本当にキツいよなぁ。」
「ふふ、お疲れ様です。でも…嬉しいよ、こうしてこっそり会いに来てくれて。」
「…なぁ、織姫。」
「なぁに?」
「いつか、生まれ変わって人間になったら、その時はちゃんと働こうな。周りの人間に心から祝福してもらえるような、いい夫婦になろうぜ?」
「うん…そうだね。」
「だから…何回生まれ変わっても、ちゃんと俺を見つけろよ?」
「うん。アナタも私を見つけてね?」
「ああ。見つけるよ。満天の星空の中から、織姫の光を必ず見つけるから。」
「ありがとう…大好きよ。だから、今は…私の膝枕でゆっくり休んで?」
「ああ、ありがとな。…なぁ、織姫。」
「なぁに?」
「オマエは、どこにいても、何回生まれ変わっても…」




(俺の、運命の女だよ)


それは、神話の時代から星が導く赤い糸。


・・・・・

和さん、素敵なお年玉をありがとうございました!
m(_ _)m 框

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