君は長生きするタイプだと思ってたよ。ひいひい言いながらもね。




の棺桶






ここはどうゆう造りになってるんだろう。
慣れていなければ居心地が悪いだけの革張りのソファーに座った綱吉は所在なさげに、窓辺に立つ男に眼をやった。
綱吉の視線に気付いたのか、男は一瞬こちらに視線を投げたが何も言わずまた窓に目線を戻した。
なんだよ、もー。と多少自棄になった綱吉は相手には聞こえない程度のため息をつく。
今綱吉がいる部屋は、四方の内の一面が全てガラス張りになっている。そこからは溢れんばかりに太陽の光が差し込んでいる。一見どこにも不思議は潜んでない景観だが、綱吉はここが地下であると知っていた。この太陽光は偽者だ。大体、この部屋に来るまで地下に入ったのに、また階段を何十段か下りたんだから。ここが地表に出ている可能性はかなり低い。いや0%だ。
なので、この太陽は霧のリングを使った幻覚なのかもしれない、と綱吉は勝手に結論づけていた。
ある程度の不思議(と呼ぶにはあまりにも凄惨なこともあるけど)にはもう驚かない自分が少し笑えた。自己の死。仲間達の行方。
どれも謎に満ちていて、自らダメツナを認めている綱吉には難解すぎて、ハッキリ言ってその謎を解く気にもならない。
だけど、綱吉の内に眠るボンゴレの血か、何かが焦燥にかられて身のうちにとぐろしているのも確かに感じる。
十年後に起きているこの惨劇の一部でも、この人は知っているのかもしれないのだ。
その人である雲雀恭弥は綱吉をここに呼んだにも関らず、部屋についた綱吉に声をかけるでもなく、顔をつきあわせるでもなくで、まるで自分の存在を無視されている気がして綱吉は居心地が悪くて堪らなかった。
いっそ自分から話し掛けてやろうか、と思ってはいるがそれを実行できていないのが今の綱吉の現状だった。
「妙な感じだ。」
「・・・えっ?」
急に発せられた雲雀の言葉に綱吉は呆気にとられる。
雲雀の方を見ると彼は窓から視線を外し綱吉を見ていた。
「十年前の君はそんなに覇気がなかったんだ。」
余裕もね。
そう言いふっと表情を和らげた男に綱吉は先ほどの呆気をもっと強くした。
笑った?雲雀さんが?
まさか、とまじまじ見ているとまた視線があった。
「将来の君は僕に命令してたんだよ。信じられる?」
「へっ?」
俺が?ひばりさんに?
「すすすすすいませせせんんん・・・!!」
「なんであやまるのさ。」
「だって俺!そんな恐れ多いことを!あの並盛の覇者に、群れた草食動物を噛み殺す肉食動物に、だめツナの俺が命令?ありえません!ってゆうよりまじでごめんなさい!俺、十年前に帰ってからはそんな人間にならないようにがんばります!がんばっていい子に成長します!てゆうかホントごめんなさい!!」
ドバッと言い切り、とても失礼なことを言ってしまった、と気づいた。
恐る恐る雲雀のほうを見る。
「……。」
雲雀は、なんというかとても呆気にとられた顔をして自分のほうを見ていた。
自分をまじまじと見つめてはいるけど、愛用のトンファーでなにもしてこない。
「…ひばりさん?」
なきそうになりながら呼んだその人は
「ぷはっ!」
あはは、と綱吉がおかしくて堪らない、とでも言うように豪快に笑った。
予想外すぎる雲雀の反応に、残念ながら頭の回転が速くない自分は、どう対処してよいかまったくわからない。
というより、そのとき自分は、やばい雲雀さん、怒りすぎて頭がおかしくなったんだ、とかなり本気で考えていた。
だって、窓に手をつき、体を曲げて笑う雲雀なんて見たことがない。というより、彼の爆笑なんてみたことがない。(そもそも、自分と雲雀は冗談を言い合うような仲じゃないけど。)
とにかく、自分の経験の中で雲雀が爆笑するなんてことはまったくの想定外。大気圏外だ。
「ひ、ひばりさん?」
とりあえずもう一度呼んでみる。
雲雀はまだひーひー言ってるけど(雲雀が引きつけ!?)なんとか大体の笑いは収まったらしい。
自分の呼びかけに、あー笑った、と返してくれた。
「お、俺なんか…気に障ることを言ってしまいましたかね。」
「いや、むしろ爆笑だったよ。」
けろっとそう言う雲雀の表情は確かに楽しげだ。
よかった、怒らせたわけじゃなかったのか、とホッとする。
「大丈夫。僕は十年後の君に命令されるのはそんなに不快じゃない。」
「えっ?ほんとですか!?」
雲雀は、自分が聞いたことない穏やかな声で話す。顔は笑っているわけではないけど、なんというかぴりぴりしてない。
というか、雲雀みたいな人がどうして自分に命令されても腹が立たないのだろう。
「君は考えが顔に出やすいね。」
「へっ?」
「マフィアには命とりだよ。大方、どうして僕が君に命令されても腹がたたないのか不思議でたまらない、ってところだろう?」
なんともしてやったりな顔でそんなこと言われると、はあ、まあ、と白状するしかないじゃないか。
十年後の雲雀さんはなんだかとっつきやすい人みたいだ。
「十年後の君はとてもおせっかいなんだ。」
「はあ。」
「僕が暴走してちょっと大きい怪我をしたときにね。君、初めて僕を殴ったんだよ。」
「なななななぐったぁぁ!?」
「うん。けが人に容赦なく。」
寝てたベットから落ちそうになった。
なななな、なんてことを俺!命令では空き足らず殴りつけるとは!どうしよう、俺はそれについて弁解、弁明、言い訳・・・ともかくあやまったほうがいいんだろうか。
「それでこう命令したんだ。一番、あなたが守らなければいけないのはあなたの命です。」
いいかげん本当に頭のキャパが足りなくなった俺に雲雀さんは静かに言った。
「仕事じゃない。あなたの命です。死ぬことは許しません。」
雲雀さんはまだ続けた。そのつりあがった目は俺を捕らえて話さないけど、なんだか他の人に話しているみたいで居心地が悪い。
「それにぼくが命令?って聞くと、命令です。って、君泣きながらいったんだよ。」
「……。」
「君は長生きするタイプだと思ってたよ。」


「あっけないものだね。」



そう言い目を伏せた雲雀さんをみて、彼は十年後の俺に話していたんだ、と気付いた。








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