ペンネと怪談



「でさ、そいつが飛んでる人間見たって言ってたんだ。」


と言い切り隣の男を見ると、いかにも楽しそうに酒をあおっていて、今の話に対する反応はなしだ。
「おい、きいてんのかヤマモト。」
ん、おう聞いてるぞ!そうペンネを口いっぱいにほお張られながら言われても全く信憑性がないっつの。
「日本人はこうゆう話すきなんじゃねえの?」
呆れながらため息をつくと、まあ人それぞれなんじゃねえ、と気のない声が聞こえてくる。
「あっ、しんじてねんだろ。」
ひでえなあ、と言うと、いやいや信じてるって。と顔の前で手を振る。
じゃあなんだってんだ、その興味ねえって態度は。
若干むかむかしながらワインを飲む。
ヤマモトと飲み友達になって案外長いけどヤマモトはあんまり日本人らしくない。日本人ってもっと繊細で神経こまやかなイメージがあったんだけどなあ。
フジヤマとかゲイコとかさ。
少しだけ日本の文化に興味のあった自分としては少しがっくりだ。
まあしかしこの男の所属するファミリー(まあ自分の所属するファミリーの上に立つのファミリーでもあるが)の守護者と呼ばれている日本人全てが、自分が今まで抱いていた日本人のイメージをあっさりと壊してくれたものだけど。
(太陽のリング保持者とか雲のリングの保持者とかは人間としてどうかとも思う。)
まったく、とため息をつくと、要は新鮮味だ、とよくわからない言葉が返された。
今の話と全く関係が見当たらないのでいぶかしげにしていると、ヤマモトは肩をすくめて言った。
「俺の仲間にも空飛べる奴いるんだわ。」
だから、おどろかねーし、疑わねーの。あたりまえのようにとんでもないことを言い出すヤマモトに驚く。
「はあ、えっとなんか科学的なあれで?」
そうだボンゴレにはすごい科学班があったじゃないか。そこでなにかつくってるのかも。
焦った。
「いや、なんか人体から溢れるエネルギーで。」
空とべんだよ。俺も習いたいんだけどさ。やっぱ難しいつか?
あっさりと俺の予想を裏切り淡々と言われた言葉になんと切り替えしてよいものか。
「・・・なんと非現実的な・・・。」
「そうなん?でも他に催眠術やりだすやつとか、発光パンチかます奴とか、どこからでもダイナマイト出す奴とか、どんなものにでも変身できるカメレオンとか、ついでに時を駆ける少年もいるんだけど。」
なに?そんなんイタリアじゃ普通じゃないの?きょとん、と効果音がつきそうな顔で見返されため息とか、失笑とかそんなもの通り越したところで呆れた。
「普通なわけねーだろ。」
お前イタリアのことなんだと思ってんだよ。と聞くと
「トマト、パスタ、そしてマフィア。」
と帰ってきた。
「あーそんなもんかよ。」
「まあそんなもん。」
屈託ないヤマモトの笑い顔にまあいいか、という結論にたどりついた。
しばらく無言で飯を口に運んでいたら、唐突にヤマモトが口を開いた。
「つかさ、さっき言ってた空飛んでた奴ってどんなんだったかわかる?」
「へ?」
「そこまではわかんねえ?」
「いや・・・えっとなんかすげえ髪の長い奴でさ。しかも白髪で。夜にしか出ないんだけど、逆に白髪だから浮くって感じで。あまりにも髪が長いからまるで蓑が一人で飛んでるように見えるって」
「ぶはっ!!」
「・・・!?」
すごい勢いで赤いもの(多分パスタとかそこらへんだと思うけどもうそれらに確かな形状がないので赤いものとしよう)を吐き出したヤマモトは、ゲホゲホと咽だした。
おいおい大丈夫かよ、と背中をさすってやるとどんどんその背中が小刻みに揺れだした。
やばい恐すぎて泣いちゃった?焦ってヤマモトを覗き込む。
「あーまじ受ける!あいつに教えてやろっと!」
突然顔を上げてそう宣言したヤマモトは、いやいいこと聞いたよ、と今までにないくらい上機嫌で円満の笑みで目の前のピザをほお張った。(さっきの赤いものはピザだったらしい)
「なに?なんでそんな機嫌いいの?」
気味悪いんだけど。そういうとヤマモトは嬉しそうに口元を吊り上げる。
ありゃ、これはかなり上機嫌だ。ちょっと異常なヤマモトに恐怖を感じ始めた俺は恐る恐る応えを待つ。

「ふふ。ひみつ〜。」

うわあきもちが悪い。今のヤマモトのはぐらかし方ものすごく気持ち悪い。なんとかそれをヤマモトに言うのだけは堪えてくっ、とワインを口に含む。
「いやでもほんといいこと聞いたよ。俺さあいつにちょっとからかう口実見つけられちゃっててさ。コシタンタン?ってのかな。逆転のチャンスをうかがってたわけ。いやほんとお前最高だよ。さあどんどん食え。ここは俺がおごりますよ。」
べらべらと良くわからないことを一人話すヤマモトは無視だ。今度はオリーブを口に放り込む。
まあおごりってのは無視しないでやろう。カウンターの奥にいるウエイターに二三注文をしヤマモトを見る。
いまだ上機嫌なままのヤマモトの前の皿にもうピザはない。頬杖をついてランランと首でリズムをとる男はやっぱり不気味である。

「・・・知り合いだったりとか?」
「むふふ〜。」

ああ。絶対知り合いだよ。
重いため息を飲んで、俺はまたワインを飲む。
ピザもう一枚!と叫ぶヤマモトを無視して、ボンゴレにはあんまり関らないほうがいいのかもしれない、と心の中で小さく思った。



少しして運ばれた店長のおすすめパスタはかぐわしいボンゴレのパスタだった。
そして誰かに対する意地として、俺は貝を避けてパスタを食べたのだった。









十年後。山本とその飲み仲間(イタリア人)。
空を跳んでいたのは例の32歳。
ゔおぉぉい。



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