王子様が王冠をはずす日


ある日起きたら王子様は王冠を脱いでいた。
朝食に現れた王子様をみんなそれぞれの反応で対応した。
無口なボスは彼を一瞥して視線を目の前のオートミールに落としそれを口に含んだ。
その横にいた銀色の髪をした側近も王子様をちらっと見て食べかけだったハムを皿に置き水の入ったグラスに手を伸ばした。
髪を立てた忠臣は変な音を起てて飲んでいたワインを吐き出した。
髪がピンクのオカマだけは王子様におはようと声をかけた。
王子様はそれにおはようと答えて席についた。
それを見届けた紅い瞳のボスは後に控えていた秘書に目をやった。頷いた秘書はその日一日の予定を読み上げた。
彼が王冠を脱いだのはそんな日だった。そんなふないつも通りの、普通の日だった。


「王冠を脱いだの王子様。」
彼の部屋は豪奢だ。彼は金色が大好きで幹部としてこの部屋を宛がわれた時、彼は勝手に黒鉄でできた窓枠を金に塗り直した。
王子様はその窓枠に手をかけていた。窓を開けようとしていたのか、開いていた窓を閉めたのか、どちらかはわからなかったけど。
「そうだよマーモン。だから俺はもう王子様じゃない。」
王子様は窓枠から手を離したけどこちらをむかなかった。彼にしては珍しいことだ。
「どうでもいいことだったんだ。」

「あってもなくても…」

「ただね、うん…頭が少し軽くなっただけだ。」

「皆も気にしてなかったみたいだったしね。」


王子様はくすっと笑ってこちらに振り向いた。

「マーモンだってどうとも思わなかっただろ?」

あぁ王子様…君は何を見てたの?
ボスは君を見てオートミールを食べた。ボスはオートミールが嫌いなのに。
銀色の髪をした剣士は食べかけのハムを皿に置いて水を飲んだんだ。きっとハムを飲み込めなかったんだ。
髪を立てた忠臣はワインを吐き出した。あれでも彼は幹部一マナーにうるさいんだよ。よほど驚いたんだ。
ピンクの髪をしたオカマはおはようって挨拶をした。いつもならそのあとぎゃーぎゃーと小言が続くのにオカマはおはようとだけ言ったんだ。何て言えばいいかわからなかったんだ。

「マーモンは何も言わなかったし。」

僕は、王子様が朝食に現れた時ただ黙ってシリアルを食べていた。
だって何も言えなかったんだ。
おはようとも、どうしたのとも、なにかあった、とも。

「でもさ俺…うれしかったよ。」

「騒がれるかと思ったんだ。ボスには縫田のかって呆れられて、スクアーロにはやっと外したのかって笑われて、レビィには厭味言われて、ルッスにはどーしたのーって根掘り葉掘り聞かれると思った。」

「でも皆いつもとかわらなかった。」

「なんだか…うん…いつも通りで…嬉しかったんだ。」

ぽつりぽつりと言葉をつむぐ王子様。
それを見ていた僕はそれに相打ちを打つことが出来ないでいた。
泣きそうになってたんだ。朝食の時からずっと。
今しゃべったらきっと泣いてしまうと思ったんだ。

「ありがとうマーモン。普通でいてくれて。」

皆…きっとね解っていたんだよ王子様。
普通にしていることが一番だって。朝食にいつも一番に来るはずの君がいつまで経ってもこないときから。何かあるなって…気付いてたんだ。
僕はね王子様。悲しくて泣きそうになったんだ。君がなにかを捨ててしまったんだと思って。悲しくて堪らなかったんだよ。
捨てざるを選なかったんだと思って、苦しかったんだよ。

「ねぇマーモン。」

「名前を呼んでくれないの?」


ベルが王冠を脱いだのは、夜風がまだ寒い春の日だった。
彼が25歳になる五日前のことだった。



エセシリアス。エセベルマモ。
ベルがティアラを外した日の話し



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