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許して欲しい。

そう願いながらけして振り向かないのは、唯。
例えばらまいた花弁の色が赤だったとしても、これだけは誓う。


僕は、君を。











「獄寺君これ」

十代目が久しぶりに聞くような弱々しい声で差し出したのは、何かが書かれていたらしい紙をとっさに千切ったもののようだった。
俺は思わず手を伸ばすのを躊躇いながらも、促されるままそれを受け取る。

「懸案が?」
「裏を読んで」
「……これは」

ざっと目を通す、それほどの長さでもない文を読み終える頃には俺の手は汗ばんでいた。
十代目の口が開くのを静かに待ちながらも、頭をフル回転させて自分がこれから命じられるであろう事を予想する。
いくつか浮かんだうち、一番最後に考えたことを思って息を呑む。その空気を感じたのだろう、十代目が小さく唇を噛んだ。

「俺はやらなきゃならないと思ってる」
「十代目…」
「でも、保険を掛けたいんだ。意味はわかるよね」
「はい。内密に」

矢継ぎ早に今後のスケジュールと連絡手段の相談をしあい、粗方話が終わると十代目は大きく息を吐いて椅子の背もたれに身を預けた。

「あまりご無理をなさらないで下さい、十代目」

その顔色の悪さに、言わずにおいた想いをつい漏らしてしまう。

「そういうわけには…」
「一人で抱え込むのだけは止めて下さい、どうか」
「……」
「俺は何があろうと貴方の味方です」
「…うん。有り難う」

ようやく、噛み締められて赤くなったその唇が綻ぶ。俺はただただ祈るより他はなくて、目の前の細い肩に手を伸ばすことなど、とても出来なかった。







コン、コン。

その殊更軽いノックには、訪問者の性格が滲み出ていた。沈黙していた俺は慌てて執務室のドアを開ける。
予想通り、そこには黒づくめの山本の姿。

「よっ……何かあった?」

室内の空気に、相変わらずの飄々とした笑顔がさっと固まる。
影の様にドアの隙間を通り抜けて音もなくデスク前まで歩いてくるその身のこなしはすっかり殺し屋のそれだ。
十代目はこちらをチラリと盗み見て断りを入れてから、山本に言った。

「極秘で頼みたい仕事があるんだ」
「要人暗殺?」
「逃亡者の追跡」

ごくりと、山本の喉が鳴る。

切れ長の黒瞳が鈍い光を宿す。
十代目はそこから目を逸らさない。俺にはそれが出来ない。
この十年間で変わってしまったこと。感傷は無い、けれど俺はそれが悲劇だと知っている。
だって十代目の瞳は悲しみに満ちている。
それを理解しているのかいないのか、本当のことなど滅多に口にしなくなった山本は傍らの刀をするりと撫で上げた。

「それで、制裁すんのな?」
「手を下すか否かは追って指示するよ。とにかく今は居所も解らないんだ…」
「誰だよ?ツナの目を掻い潜れる奴なんてそういないぜ」
「……」

気の無い風を装って尋ねられたそれに、息を止める。
怪訝な顔でこちらに向き直る山本の視線が痛くて、思わず眉間に力を込めて目を閉じると、いよいよ山本も嫌な予感に思い当たったらしい。
バン、と机を叩く音に目を開ける。
十代目に詰め寄る山本の横顔がみるみる白くなって行くのに、俺はまた目を逸らす。

「昨日のうちに、晴のリングを持って姿を消したみたいだ…誰もその現場を目撃していない」
「一人で?」
「雲雀さんも知らなかったらしい。電話口でも動揺が伝わってきたから間違いないよ」
「そっか…」
「…山本?」
「ならいいや」

呟きは小さく、ともすれば聞き逃しそうなほどで。けれど俺にははっきりと分かった。恐らく十代目にも伝わっていたのだろう、不安そうに瞳が揺れている。
方や机から身を離して背筋を伸ばした山本はというと、俺たちの視線もどこ吹く風、いつも通りの飄々とした表情を貼り付けて、ニカッと笑って見せた。

「大丈夫だぜツナ、ちゃんと見つけてきてやるからさ」

その指先は静かに、優しく、刀の柄を撫でていた。











fine


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