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南イタリアの空は今日も青い。

綱吉がドン・ボンゴレに就任して以来、幹部の一人としてニューヨークの構成組織を任されていた雲雀にとって、そんなイタリアの空を見るのは随分久しぶりだ。
彼はラグーザの町並みを車窓ごしに眺めながら、あまりののどかさに小さく欠伸をした。
リボーンの勝手な判断で行きたくもない高校に入れられ、卒業後は非難する暇も与えられずディーノの下に飛ばされ、次はニューヨークだと言われた時、もう好きにすれば良いんじゃないのと二つ返事でイタリアを離れたのだが、全く正しい判断だったと今更ながら雲雀は思う。
歳を重ねても、美しい町並みと静かな時間の流れを感じるこの地より、死線を潜り抜ける様な危険が付き纏うアメリカでの生活の方が性分に合っている。
腹立たしい事だが、昔からリボーンには何でも見通されているのだと認めるより他は無かった。そんな物思いに耽っていた彼の耳に、思わず眉間に皺を寄せたくなる名前が飛び込んだ。

「了平さんからお電話です」

「………遅い」

忌々しげに呟き、数日前の出来事を思い出す。了平が珍しく寝坊したのだ。
仕事内容上、世界各地に飛び回って定住することが無い彼が、今回は珍しく2か月以上ニューヨークに滞在して、しかも同じ仕事に関わっていた。そのため、行きの飛行機も同乗を予定していたのだが、寝過ごして乗り遅れるという大失態を働いたのだ。
その後、持ち前の運の良さですぐにキャンセルに出くわし、何とか間に合いそうだと部下から聞いていた。
雲雀は車内電話を受け取ると、間髪入れずに怒気をあらわにする。

「どこにいるの」
『すまん連絡が遅れた!実はもうイブラに着いている』
「…早過ぎない?」
『空港でコロネロ師匠に偶然鉢合わせてな、軍用機だったんだが特別に乗せてもらったのだ』
「へぇ…偶然……」

了平の話によると、仕事で滞在していたベトナムから自分達と同じ理由でイタリアに降り立ったコロネロと偶然出会い、事情を知った彼の厚意で私用借り出ししたイタリア空軍の輸送機に相乗りしたらしい。
以前海軍の特殊部隊に所属していたコロネロが空軍の戦力を私用できる理由については、現在着実に軍部の最奥にまで発言力を延ばしているという噂を当てにするなら説明がつく。
しかし了平の迎えが来ない所に彼が現れるなど、偶然にしては出来過ぎていた。
コロネロは笹川兄妹をいたく気に入って昔から何かと自分のものにしたがっていたし、了平と雲雀が付き合いだした時一番邪魔をしたのは彼だ。
それを考えれば疑わしいものである。


雲雀は地を這うような声で偶然ねぇ、と繰り返した。

(運転手を買収したか…)

自分を笹川家の不幸呼ばわりした人物との和解予定は微塵もなく、雲雀は今だに彼をどうにかして抹殺出来ないものかと考えている。
よってそんな気味の悪い偶然を信じる気持ちもまた、微塵も無いのであった。

「まぁ良いや。それで何の用?」
『今どこまで来ている?こっちは細い路地ばかりだから小型車を迎えによこしたんだが』
「もうラグーザに入ったよ」
『高速を降りた所に黒いフィアットが止まっているからそれに乗れ』
「わかった」


ラグーザは整然とした道が通るスーペリオーレ地区と、細い路地が迷路のように入り組んだイブラ地区区とに分かれている。
目的地はイブラ地区のとある教会で、奥まった場所にポツリと建っているのだと聞いていた。確かに今乗っている大きめのドイツ車では辿り着きにくいだろう。
なにより、こんな厳つい車はイブラの素朴で静かな空気からは浮き過ぎる。目立たないためには乗り換える必要があった。今日のイベントは必ずひっそりと、誰の目にも普通でなくてはならないのだから。
高速を降りると確かに黒いフィアットがポツリと止まっていた。
運転席には丁寧に整えられた銀髪が見える。
雲雀は運転手に昨日の宿まで戻る様伝えると、フィアットの助手席に乱暴な仕種で乗り込んだ。

「一日ぶり」
「あぁ。車移動は疲れたか?」
「別に。でもパレルモから一日以上かかるなんて最悪」
「念のために人の少ない場所を選んだんだ。仕方あるまい」
「分かってるよ…偉そうに」
「ん?何か言ったか?」

コロネロの件を少し根に持って発したほんの僅かな囁きを聞き取ったらしい了平の悪気の無い笑顔に、毒気を抜かれた雲雀は土足のままサイドボードに足を乗せてはぐらかした。

「京子のウエディングドレス姿、楽しみだねって言ったんだよ。」


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