とても心地よい春の中旬。今日、土方が結婚する。








未来、





「ふっ」

手に持っていたタンポポに息を吹きかける。
沖田は何度もそれを繰り返した。

上を向くと真っ青の空で、先ほど飛ばしたタンポポが浮かぶだけ。それ以外何も浮かんでいなかった。怖いくらい、何もない空だった。

「ふっ ふっ 」

出そうになるそれを我慢して、手に持っているタンポポの綿毛を飛ばし続ける。そう、この行為は良いことなのだ。風が無い今日に、自力で飛べないタンポポを飛ばしている。良いこと。そう、良いこと。胸の奥の重い気持ちが息になる。これは、良いこと。

「んーっ」

思い切り立ち上がり屯所を見下ろした。足元には瓦が広がっていて、ここは屋根の上だと再確認。きっと誰も気づかないだろう、こんなところ。

そう思い手に持っていた元タンポポを見つめる。たった一つだけ綿毛が残っていて顔をしかめる。ああ、また息を出さなければいけない。ふう。


「ふーっ」


ふわり飛んでもそれでも息を吹きかけ続ける。おなかの底から、息が切れるまで、出し続ける。



「っ」



幸せそうに微笑む二人が見えた。フラッシュバック瞳の奥。ズキズキ傷つく胸、沖田は眉をぎゅっと寄せた。お似合いな二人はきっと幸せになってくれる。


さよなら恋よ。
俺が不幸せなら、きっとあなたは幸せだ。


「でも、これで、諦める、俺、じゃ、ありやせん、」


もう片方の手を天に掲げ涙で濡れた顔、神様へ向けた。


「諦める訳ないじゃないですか。だって、そうでしょう。俺は、欲しいもんは、手に入れたい主義なんでさァ。分かるでしょう。こんなことで諦める俺じゃねェ。なァ神様。いるのなら聞いてくだせェよ?」


思い切って沖田は叫んだ。



「未来をください」


「きっと俺は、次の俺は、こんなヘマしないから。」

「ひとつだけ」

「願いは」

「今叶わなくても」

「それでも次は」

「次こそは」

「きっと あの人の隣 」

「これ以上の願いは  ない!」


片手持っていたそれに叫んだ。
天高く掲げた手の先に真っ白なそれを、マイク変わりにして、吹きかけた。


舞う綿毛の中沖田は泣く。
いつかいつかと思いながら。
涙は瓦へ嗚咽は名前へ。

「土方さん」

 土方さん



   土方さん









「土方さん!」


がばりと起き上がった。
総悟はきょとんと目を開く。見えたのはクローゼットと自分の机。ベッドのすぐそばには窓があり、明るい陽射しがカーテン越しに部屋に満ちた。

何てことはない、自分の部屋だ。


「あれー・・・」

ガンガン痛む頭を押さえながら、とりあえず、瞳からぼろぼろ零れ落ちるこれをどうにかしないとと考える。

またあの夢だ。
きっと前世の自分、江戸時代。

総悟には昔から前世の記憶があった。生まれ変わりという奴だ。小さい頃から嘘なんて言っていないのに、家族からも子供の嘘だと笑われた。

あのおじさんしってる。たばこ屋の、おじさんだよ。
そう言っても両親は首を振った。違うよ、総悟。あの人はお父さんの兄弟だよ。大工さんだよ。
信じてもらえないことが辛い。物心付いた瞬間にその気持ちを味わった。


「うう、頭痛い・・・」

嫌な記憶を思い出して、頭が殴られたように痛い。

同時に胸も苦しい。
大失恋をして、それでも、愛しい人のそばにずっといた昔の自分。100年たった今でも傷は癒えない。


「総悟?」

「!」


ごしごしと服の裾で涙を拭っていると、ガチャリと音がし扉が開いた。
ひょこりと顔を覗かせたその人に、総悟は名前でない名前を言った。

「土方さん!」

「おはよう。また泣いてんのか・・・?大丈夫かよ」

不安そうに顔をしかめ、入ってきたのは100年前に失恋をした相手。土方そのものだった。

「ん。また嫌な夢をみて・・・」

「昔からその悪夢癖は治らねェな。でも久しぶりじゃね?」

「うん。二か月ぶり・・・?」

「ほらティッシュ」

「ありがとう、土方さん」

「いや土方じゃねェし」



「・・・ありがとう、兄ちゃん」



くすくす笑う土方・・・もとい、兄の十四郎を見て総悟は顔を伏せる。


苗字は沖田でもなく、土方でもなく、どこにでもいそうな苗字の兄弟。何故だかそれがとても悲しい。
ああ、いじわるだ。


神様はとても意地悪だ。

さらに過酷な状況にして未来へ放り投げるなんて。


「もう泣き止めよ。な?」

「うっ、うん・・・っく、」

大きな愛しい手のひらが、自分の頭を優しく撫でて、総悟の胸はぎゅっと締め付けられる。さらにあふれる涙に焦る。ああ、兄が慰めてくれているのだから、早くこれを止めないと。
これは悲しみか幸せか。前者だろうか、いや、それでも総悟は思うのだ。


神様、意地悪な神様。悔しいけれど、それでも俺は幸せです。
愛しい人とこうしてまた触れ合うことができる。とてもとても幸せです。

過酷な状況を忘れてしまうほど、幸せでたまりません。


「・・・兄ちゃん」


名前を呼んでしまいそうになりそれをぐっと我慢して、愛しい兄の手を取る。

両手で握りしめて、想いがあふれそうになる。愛している。たしかにこの人を。

思わず兄の手に口づけた。

いつか絶対に手に入れてみせる。





分かるでしょう。こんなことで諦める俺じゃねェ。なァ神様。いるのなら聞いてくだせェよ?



未来、来いよ
Thanks!「クワガタチョップ」



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