朝起きたらイケメンがいた。 「おはようございやす。えっと、プレゼント持ってきましたァ」 ・・・サンタ服の。 青年サンタクロース 土方はぽかんと口を開けた。 寝起きなので目は半開きのままだったが、口だけはしっかり開けて目の前のそいつを見る。 全身真っ赤なそいつは白いふわふわしたボレロを着て、頭の上にはサンタ帽をかぶっていた。クリスマスシーズン、店頭でバイトをしているサンタコスプレを想像すればそれでおおむね間違ってはいないだろう。 問題は、何故そのようなサンタコスプレが寝起きの土方に正面からまたがっているか、だ。 「聞いてやすかい?」 「あ、あ?聞いてるけど・・・っていうか、誰だお前」 冷や汗をだらだらと流しながら土方は問う。顔の良い友人はたしかにいるが、ここまで 綺麗 な顔をした人を土方は知らない。見覚えがないのだ。 「誰って・・・見てわかんないんですかねぃ」 目の前のイケメンは土方の腹に両手を当てた状態で、きょろきょろと自分の格好を確認する。や、分かりますよ。見たらサンタってことくらい。 ・・・え? 「サン・・・タ、クロースとでも、言うつもりか?」 「? そうですけど」 何当たり前のことを言っているんだ、という目で土方を見る。いやいやいや、ありえないからね!サンタクロースが大学生の俺のアパートに来るとかありえないからね!というツッコミを心の中ですませ、もう一度目の前のイケメンを見てみる。 そしてとりあえず、 「帰れ」 不法侵入者だと確信した。 「!!」 大げさなほどガンッとショックを受けたような顔をするイケメン。そんなイケメンを苦々しく見つめ土方はため息をついた。 「何でサンタがそんなイケメンなんだよ・・・あきらかにちょっと顔の良い一般人じゃねェか」 「信じてくれないんですかぃっ」 大きな声で反論するイケメンは身を乗り出して土方に顔を近づける。・・・いい加減どいてくれないかな、と土方はぼんやり思った。 「とりあえずどけ。そして名前を言え」 「え、あ、ごめんなせぇ」 今の状態を再確認して、何故だかイケメンは頬を染める。いや意味わかんねェし、先に乗っかってきたのはそっちだろう? 「えー、俺の名前は総悟でさぁ」 「ふーん、ま、名前は大事だよな。今から警察に叩きつけるんだし」 「ちょっとそういうこと言わないでくだせぇよぅ」 総悟と名乗ったサンタクロースは心底困ったような顔をした。そしてまた自分はサンタクロースだと言い張る。・・・いい加減にしてくんないかな。 「俺土方さんのほしいものなら何でも知ってますぜ。これ聞いたら絶対サンタだって、信じまさぁ」 「ほう。言ってみろよ」 「まず最近ちょっとほしいなぁって思っているのが新しい本棚でしょう、そして、この間から調子が悪いファンヒーター。買い換えようかなって思ってます」 「・・・・・・」 前言撤回。ストーカーだったか。 「そんな目で見ないでくだせぇ。仕事なんで」 「・・・はぁ。」 「そして一番ほしいもの、俺知ってんでさぁ」 語尾を上げて嬉しそうに総悟は言う。欲しいものを言い当てられた土方はぎくりと肩を強張らせた。・・・こいつが言っていることが、本当ならば。 「今恋人ほしいでしょう」 「・・・・・・」 本当に言い当てられ、土方は気まずそうに視線を泳がせる。 「彼女と二ヶ月前に別れたもんねぇ」 「・・・黙れ」 元々喧嘩が多いカップルだったのだ。二ヶ月前に大喧嘩をしてしまい、結局サヨナラとなってしまった。 「はぁ、うるせェな、大学生なんだ。彼女ほしいって思うのは当たり前だろう」 「ふふ、まぁねぃ。クリスマスまでにできなかった土方さんに、俺はその恋人をプレゼントしようと思って来たんでさぁ」 はぁ?と土方は総悟を見た。何を言っているのだ、このサンタは。プレゼントが新しい彼女っておかしくないか。 「このサンタ袋の中、どこでも繋がるようにできてるんでぃ。土方さんが好みの子言ったら即座に出してあげますよ」 「いやいやいやいやその子の気持ちは無視かよ!」 「大丈夫大丈夫、土方さんかっこいいし、誰でもすぐに落ちますよ」 「いらんわそんな軽い女!」 素っ頓狂なことを言う総悟に向かって土方は叫ぶ。サンタだからだろうか。常識というものがまったくない。 それよりも聞きたいことがある。さっきから気になっていたこと、どうして、こいつは 「どうして俺なんだ?」 「・・・」 唐突にそれを問うと総悟は目を丸くした。 ・・・そうだろう。何千何百と人はいるのに、どうしてよりによって土方なんだ?小さな子供のところにでも行ってやればいいのに、それなのに、どうして一人暮らしの大学生へサンタクロースはやって来た。 「、」 「なぁ、教えろよ。ガキじゃなく俺のところへ来た訳を」 さらに聞くと総悟は恥ずかしそうに顔を俯かせる。土方の左胸が跳ねた。・・・そんな反応をされるとは、思っていなかった。 「サンタは、ね、毎年、誰に何を送るか自分で決められるんでさぁ」 「うん」 「その、誰に送ろうかなって、前の年と同じ、小さい子に贈ろうって思ってて、」 「思ってて?」 「土方さんを見つけた」 顔全体を赤くしぽつり、ぽつりと総悟は言う。図々しい態度を取っていたイケメンがこんなに可愛らしくなるなんて、誰が想像できよう? 「土方さん、店の前で彼女とすごい大喧嘩してて、それからこの人面白いなって思って、・・・それからでぃ。子供探すつもりだったのに・・・」 「・・・」 「いつもあんたを探してた」 彼女がほしいならその通りにしよう。たしかに自分は土方に惹かれてるんだろうけれど、サンタクロースは自分にプレゼントなんて望んじゃいけないんだ。 総悟は悲しそうにそう呟いた。 ああ、そうか。自分が一番欲しいものを、土方にプレセントしようと思ったのか。 「俺と、恋人になりたかったのか」 「・・・、」 たしかにコクリと頷いた総悟を見て土方は気付かれないよう深呼吸をした。・・・心臓が暴れていた。 「小さい頃、」 「?」 唐突にしゃべりだした土方を総悟は不思議そうに眺める。それに気付き土方は笑うなよ?と念を押す。 「小さい頃、サンタクロースは俺らにプレゼントしてくれるけれど、自分は、サンタ自信は何もプレゼントしてもらえないんだなぁって考えて・・・泣きそうになったことがあった」 「!」 「だから・・・今年は、俺がサンタにプレゼントをしようと思う」 そう言い土方は総悟を抱きしめる。 ふわふわのボレロが頬にあたって、くすぐったかった。 「えっ、え、」 「それに、そんな一生懸命に俺を求めてくる人今までいなかったし・・・」 とそこまで土方はいいごにょごにょと言葉を濁す。 続きを促すかのように総悟は土方を抱きしめ返した。 「う、嬉しかったんだよ・・・!」 総悟は泣き出しそうに肩を震わせた。嬉しいなどという言葉を、贈ってもらえるなんて思っていなかったのだろう。 「じゃ、本当に、いいんですかぃ?プレゼントは・・・いらない、の?」 「いいよ。彼女なんかいるか。総悟がいい」 「!」 「総悟がプレゼントってことで」 大きな土方の手ですっぽりと総悟の顔が包まれた。恥ずかしい顔が隠せなくて、さらに恥ずかしくて、総悟は軽くパニックになる。 「・・・すまん、自分で言っててはずくなってきた」 「えっ!いや、でも、俺も土方さんがプレゼントでさぁ」 「あぁ、そっか」 二人してプレゼント同士かよ、と土方が笑った。 「・・・せっかくのクリスマスだよな・・・午後から、デートでも行くか?」 「ひ、土方さんとデート・・・!?いいんですかぃ」 「ん。その前に」 土方の顔が近付き総悟の唇にそれが触れた。 「言ってなかったよな」 「Merry Christmas!」 |