[携帯モード] [URL送信]






「…忍人、約束してくれませんか?」




ふわり、と笑う。
こういう時は、大概ふざけた願いを言い出す。
数年来とはいえ、この男とは付き合いが長かったのだ。
少し離れていた時間など、妨げにはならない。

堅庭に通る風が、頬を擦り抜けていく。
淡く輝く光だけでは風早の表情は見えなかった。
これ程、夜を疎ましく思った事はない。




「…嫌と言っても、勝手に約束させようとするだろう?」

「聡いですね。ありがとう、忍人」




堅庭の風が纏わり付く。
空の暗さに、見えない表情は不安にさせた。
紡がれる言葉の、何とふざけた事か。

(嗚呼、どうして。)
(どうして、そんな笑顔でそんな事を言うんだ…!)













空は闇を連れて、月を覆った。
目を細めて空を見上げれば、あの日の言葉を思い出す。

中つ国は幸せに満ちた国へとなっていた。
二ノ姫を始めとし、常世のアシュヴィン、シャニを筆頭として支え合いながら政を治めている。

忍人は将軍の中でも筆頭として、政に参加していた。
二ノ姫の理想を叶え、民が豊かに暖かく、誰も飢える事のない、優しい国にする為に。
彼が居なかったら、恐らく此処まで上手くいかなかっただろう。


彼―――風早が、居ないままで。






「風早」




呼んでも言葉は返って来ないのは、もう身を持って知っていた。
何度も呼んで、思い知らされていたから。

こんな時に涙の一粒でも流せるのであれば、心は少しは晴れるのだろうけれど。
決して忍人は涙を流さなかった。
流す事すら、忘れるくらいに、捜し回っていたからだ。
勿論、風早を捜しているのである。


(…風早)

あの日の、風早からの約束を、忍人は守っていた。
忙しい合間だろうと、彼の身体を動かしていたのは約束だった。
疲れた身体すら、その約束の下ではどうでも良いのだ。


交わした言葉。
ふわりと笑う風早。
伸ばした手は、今は届く事はない。

捜している。
どんなに疲れていようと。
約束している。
そうする事で、忍人が生き延びようと考える事を、風早は知っているからだ。


忍人は生かされている。
風早との交わした約束に縛られたままで。
約束に生かされている。
甘い呪縛は、それを幸福だと教えている。










『約束してください、忍人。俺が居なくなったら、必ず俺を捜して見つけだしてくださいね』


(見つかる気など、更々無いくせに。)
(そうしてお前は俺を置いて、そしてあの笑顔で笑っているんだろうな。)















Without searching
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
「風早」
何度呼んでも、意味は無いとは思いたくない。
本当は、捜さないで欲しい、という事も考えたくはない。


忍風。
風早ルートのノーマルエンドで、忍風だと思ってください(ややこしい…!)
タイトルは風早が言ってる事と真逆になってます。

Without searching(捜さないで)


あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!