部屋に帰って来ると、夕飯の匂いがする。 数年前から、こんな感じだ。 オレが帰る時間には夕飯の匂いが、部屋に香る。 こっちに帰って来て、数年が経った。 こっちで重点的に仕事をしたいと我が儘を言っても、許される位に有名になったと言っても良い。 それだけオレが出世したんだ。 「ただいま」 「あ、おかえり!桂太」 夕飯の匂いを作った張本人は彼女だ。 元は兄の涼太の恋人。 しかし現在、オレの恋人でもある。 そう、建前は。 (恐らく建前と思っているのはオレだけなんだろうけど) 彼女が此処に居る理由は、オレの恋人だからだ。 無理矢理、付いて来させたと言っても良いんだけど。 それじゃ、まるで全面的にオレの方が悪いみたいだけど、実は同意の上だ。 涼太から彼女が逃げた。 それだけの事だ。 昔、まだオレが留学だの何だの忙しかった時期の事だ。 涼太の事を何でもかんでも一心に嫌っていた時期。 憎んでいたとも言える。 その時期に、無理矢理だけど、オレは彼女とキスをした。 涼太の居る前で。 それが発端になって、彼女と涼太は別れた。 正確に言えば、それが後ろめたい気持ちになった彼女が、涼太から離れただけだ。 初めから。 そう、初めからオレは彼女が好きだった。 出会った時に涼太に間違えられて苛々したけど。 少し鈍臭い所も。 お節介な所も。 全部引っくるめて、恐らく好きだった。 双子ってのはよく似るものだ。 良い所も悪い所も。 全部引っくるめて。 言わば好きになるタイプも、結局は一緒なんだ。 だからある意味必然だった。 「なぁ、」 「なーに?今日はビーフシチューなんだけ、ど……桂太?」 近くに寄れば、後ろから抱き締めて。 すっぽり腕の中に収めてから、彼女の目を見つめた。 その目には自分が映っている。 彼女が好きで、恐らく今でも好きで。 愛してやまない涼太と同じ顔の自分だ。 我ながらよく似てる。 滑稽な位だ。 今日も彼女は涼太の事を思っているに違いない。 明日も、きっとそうだ。 そう思うと何だか泣きそうになるけど。 でもそれでも彼女の傍らに居るのは、好きだから、なんだろう。 絵を描くのに、感情は必要だ。 けれどこんな痛いくらいの気持ちを望んでいるんじゃない。 望んでいるのは、彼女を好きという感情と、彼女がオレを好きと言ってくれる感情だけ。 「好きだよ」 「…私も好きよ、桂太」 嘘だと知っていても。 何時まで経っても、アイツが好きなくせに。 そう解っていても。 譲れない。 譲りたくない。 手放したくないんだよ。 なんて報われない想いなんだ。 (ねえ、何時になったら気付いてくれるの?) (本当に私があなたを好きだって事を。) 誤解上の恋人達 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> いつの間にか、私はあなたを愛していたの。 最後は主人公側って事で。 とりあえず互いが好きと自覚していても、伝わらない。 恋人なのに伝わらない。 相互的に片思い。 [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |