「…初めて見た」 「何が?色ちゃん」 「お前が真面目に机に向かって、問題を解いている姿だよ」 色が言ったのは、アキの事である。 夕暮れに染まった教室での出来事だった。 教室は真っ赤だ。 橙色に染まって、赤く見えるのだろう。 色の頭を過ぎった言葉を代弁するのであれば、アキの名前に似合う色である。 机にはアキ。 その目の前に座るのは色。 机上には携帯と、ノート、教科書、そして筆箱。 シャープペンシルは筆箱から出ていて、アキが手にしていた。 要は、彼は勉強していたのである。 色は普段、彼が勉強をしている所を見た事がない。 勉強のできるアキの片割れも、本を読んでいる所は見た事があるが、勉強をしている所を見た事がない。 第一、アキとフユだけでなく、ハルやナツも勉強している所を余り見ないような気がする。 なのにテストが上位というのは、何と言うか、天才なのだろうか。 それはそれで凄いのだが。 だから色は今こうして、彼が真面目にやっているのに目を疑ったのだ。 「…そうだなぁ。オレはね、色ちゃん。フユみたく超天才じゃないからさ」 「…どういう事だ?」 「オレは天才だけど、フユは超天才なワケ。女の子だけじゃなく、アイツを屈服させるには頭も必要なんだよね。バカじゃ、勝てない」 じゃないと、生き残れないもの。 一つの身体に、二つの意識。 バラバラになりそうな身体も心も、互いがそれぞれ生き残る為に。 互いを蹴落としてまで。 (じゃなきゃ、隠れてこんな所、) (―――見せる筈がないじゃないか) 夕暮れに染まる。 色は最終予鈴の音に、机に向けていた顔を上げた。 その顔が真っ赤に染まった。 アキは手元のシャープペンシルをノートに転がす。 指先も、色づいていた。 色ちゃん、 アキは声を出したけれど、チャイムに消されてしまった。 それほど小さな声だったのだろうか。 色ちゃん、オレはね。 生き残りたいんだよ、片割れを潰してでも。 夕暮れに消えた言葉 >>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>> だからこの後に君を口説く、この命に賭けて。 アキ色っぽいもの。 アキは純粋に本能に従うかの如く。 勉強しているアキが見てみたかっただけの話(笑) [グループ][ナビ] [HPリング] [管理] |