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何故彼がこんなささやかな気遣いを見せてくれたのだろう。彼の前で弱音を吐いてしまったから、同情でもされたのか。余計なことをしてくれる。
「……」
わざとらしく寝台の影に隠れている姿に、何故か苛立ちを感じた。
僕のことを嫌悪している癖に、弱味を見せたら同情か。そんな偽善などやめて欲しい。
僕は立ち上がって、寝台の方へと近付いた。先ほどの位置からは見えない、影になっている方向で、彼が座り込んで顔を伏せている。
耳をすませてみると、規則正しい呼吸が聞こえてきた。
「起きてください」
声をかけながら、膝を抱える腕を掴んだ。立たせようかと思ったが、本当に眠っていたらしい彼は、突然起こされてまともに足が立たないらしい。
仕方が無いので、手前のベッドの上へ持ち上げる。
彼は寝台に身体を預けながら、頭を軽く振った。眠気を払っているのだろう。
寝起きが良くないのか。それとも、ここに連れ込んでからあまり眠れていない様子だったから、これが久しぶりの睡眠だった、とか?だとしたら、こうして乱暴に起こしてしまったのは、少し悪かったかもしれない。一瞬だけそう感じてしまったが、すぐに我に返る。
彼の同情に当てられたか?別に彼の睡眠事情なんて、僕には関係無いだろう。
まだ眠気を含んだ顔を上げさせて、短めの前髪をかきあげて額に手を当てる。昨日から熱は下がったようだ。念のため、体温を測っておこうか。
自前の体温計を取り出して、彼の肌に当てる。すぐに測定終了の音が辺りに鳴り響いた。小さなディスプレイを見てみると、その数値は平温を表示している。
それを確認して、僕は小さくため息を吐いた。そしてまだ項垂れている彼へと視線を戻そうとして、気づく。
今、僕は何を考えた?この下がった体温を見て、安心していなかったか? 
「……そんな訳、無いじゃないですか」
自分の思考に対して、声を出して否定をする。
僕の言葉が自分へと向けられたものだと思ったのか、彼がまだ調子の戻っていない顔で、僕を見上げた。
別にあなたなんかに話しかけた訳じゃない。勘違いしないで欲しい。だから、その視線を僕に向けるんじゃない。
「だからこっちを見ないでくださいってば!」
声を張り上げながら僕は乱暴に彼の腕を掴んで、今度こそ立たせた。
こちらを見る視線も、ぼんやりとしたその表情も、すべてに対して苛立ちを感じる。気に入らない。
「……お、ま」
「もう、いいです」
何かを言おうとした言葉を遮る。もう彼の声も、聞きたくない。
「ここから解放してあげます」
手早く彼にかけられた鎖を外す。ただ鍵を突き刺して鍵穴を回すだけだから、簡単に解除できた。
そしてまだ足元の覚束ない彼を引っ張って、部屋の扉まで連れて行く。引きずるようにして、一緒に外へと出た。
「僕は一旦自室へ戻ります。あなたももう帰っていいですよ。数日間付き合っていただいて、ありがとうございました」
廊下の床で放り投げるように腕を放せば、彼はその場に力なく座り込んだ。
「ちなみに、このことは外部には漏らさないほうがいいですよ。下手したらあなたの見られたくないような映像が外に出回ってしまいますから。それでも構わないとしても、行動を起こす前にまず、頭の良い方々は僕とあなた、どちらの言葉を信用するのか、よく考えてから行動しましょうね」
早口に言葉を並べる。それでも彼には十分僕の言いたい事は伝わっただろう。
「最低、だな……」
吐き捨てる様に、そう言われた。
「最低で結構です。あなたに好かれては、困りますから」
上目遣いに睨まれる。その目つきに、どこか安心する自分がいた。
中途半端な優しさなど見せずに、ずっとそうやって僕を睨んでいてくれたらいい。
「では。一応あなたは明日まで休みになってますから、今日はお休みされても構いませんよ」 
何も言わない彼に背を向けて、僕は歩き出した。振り返らずに。





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