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「……はぁ」
しばらく集中していたら、目が疲れてきてしまったので、画面から視線をそらして少し上を向く。
瞼を閉じてみると、少し眼球の表面が沁みた。乾いてしまっていたらしい。
ふと隣を見ると、横たわったままの彼がこちらを見ている。しかし僕と視線が合った途端、気まずそうに顔を逸らした。
「なんですか、見ないでください」
先程心底僕といるのが嫌だと言ったばかりだろう。僕だって、あなたなんかに視線を向けられるのも嫌だ。
彼は少し眉を寄せて、顔を伏せる。
大きなため息をついてから、僕は画面を閉じた。そして、何も無い床を見つめる。
……たまに、こうしていつもの職場から少し離れて作業をしていると、我に返ったように虚しさを感じる時がある。
「……いいですよね、あなたは」
独り言のように、口を開いてしまった。
彼に話しかけているつもりは無い。ただ、1人で喋っているだけだ。
「あなた1人いなくても、業務が回ってしまうのですから。気楽な立場ですよ」
密室で、こんな気分の時に、二人きりだったのがいけなかったのかもしれない。他人に弱みを見せるような発言をしてしまうだなんて。
「僕は……時々、何もかもが嫌になってきます。周囲の期待にも、僕を敬うような視線にも、すべてから逃げたくなる」
僕は今の生活に満足している。すべては今までの努力の賜物であるし、それを成し遂げた自分にも誇りを感じている。そのはずだ。
ただ、僕が弱いから、現状のすべてを受け入れる事が出来ていないのだろう。これは僕個人の我侭だ。
そこまで思考を巡らせてから、後悔する。こんなこと、言わなければよかった。
彼の反応が全くないことから、聞いていたのかどうかは分からない。寝てしまっているのかもしれない。
「……」
まぁ……どうでも、いいか。
僕は壁に寄りかかって座ったまま、膝を抱えた。そのまま瞳を閉じる。
視界が暗闇に包まれる。
この光景が、一番気分が落ち着く。







いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
着けている腕時計から鳴るアラームの音で目が覚めた。いつもこれを目覚まし代わりに使用しているのだ。
起き上がろうとしたら、座ったままの体制で眠ってしまっていた為か、身体の節々から痛みが走った。
こんな所で眠ってしまうだなんて、やってしまった。最近は睡眠時間をきちんと取るように心掛けていたのに。
「……?」
ふと、肩にかかっているものに気がつく。
白くて、うすっぺらい布がいつの間にか僕の身体にかけられていた。
これは……。
それを摘んで確認してみると、どうやらベッドの上にあったシーツらしい。
何でこんなものが僕にかけられているのか。そんなの、答えは一つしか考えられない。
この部屋にいる人間は僕ともう1人しかいない。そして僕ではないとすれば……。
「…………」
最後に見た光景の中で彼が横たわっていたベッドへと視線を向けるが、そこには誰もいなかった。
窓枠から繋がっている鎖の先を視線で辿ってみると、鎖の先はベッドの向こう側へと消えている。
僕からは見えないが、ベッドの陰にいるのだろう。わざわざ固い床に下りて、寝なおしたのか?変な話だ。
立ち上がって、僕は白いシーツをベッドの上に放り投げた。両手を天井へと伸ばして硬くなってしまった身体を解す。




あきゅろす。
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