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こうして数年ぶりに再開を果たした僕らは、また一緒に行動するようになった。
離れていた間に、他に仲の良い友人は出来なかったのだろうか。僕なんかと、一緒にいても良いのか。
などと様々な疑問が浮かんだが、直接問いかけるまでには至らなかった。向こうも離れていた間の僕の生活については、何も聞いてこなかったからだ。
あちらは以前と住んでいる場所も変わらないようで、朝も一緒に通学した。
並んで歩きながら、少し早歩きな彼に歩調を合わせ、そして耳を澄ませて横目で隣を伺い息遣いを感じる。吸って吐くその瞬間を聴覚で感じながら、僕もタイミングを合わせて一緒に呼吸を繰り返すと、なんとなく彼と気持ちが通じ合っているような気がして、気持ちが落ち着いた。
朝の空気は澄んでいて、僕の胸に優しく染み込んでいく。



「……なんだよ」

昼食の時間、上目遣いに少し睨むような視線を向けられた。
どうやら僕が彼の食事姿をずっと見つめていたのがばれてしまったらしい。
「な、なんでもないですよ」
咄嗟には気の利いた言い訳なんて出てこなくて、僕は首を振って否定するしかできなかった。向こうも特に何かを気にする訳でも無く、食事を再開させていた。
僕も目の前のお弁当に箸をつける。僕の昼食はだいたい毎日近所のスーパーで買ってきたものだ。母親が仕事で忙しいから仕方が無いし、文句を言うほどの不満も無い。
あえて言うなら、本来なら暖めないといけないであろう弁当を、冷たいまま食べないといけないのが少し嫌だったりする。一応、食堂に行けば電子レンジが置いてあるのだけど、限られた昼食の時間に食堂まで遠出なんてしたくない。彼との昼食の時間が減ってしまうじゃないか。
なんてどうでもいい事を考えながら、弁当の中のハンバーグを箸で小さく分けて、摘んでみる。冷たいのは慣れればそんなに気にならないのだが、こういったものにかかっているソースがゼリー状のままなのはどうにかしたい、かもしれない。
じ、っとハンバーグの破片と睨めっこをしていたら、目の前から寄せられる視線に気がつく。さっきまで自分の食事に夢中だったはずの彼が僕を見ている。
「なんですか?」
先ほど言われた言葉を、そのまま本人に返す。
すると、僕より少し目線の低い彼はぴくりと肩を震わせて、僕と視線を合わせた。
「箸の持ち方、相変わらず変なんだな」
「そうです?」
言われて見て自分の手元を見てみる。これがいつもの持ち方だから、どこがおかしいのか自分では分からない。
しかし、相変わらず、と言うことは、以前にも指摘された事があったのか。記憶を巡らせてみるが、僕は覚えていなかった。
でも、これに続くだろう言葉は安易に予想がつく。
「妹さんみたい、ですか?」
昔よく言われていた言葉。当時は自分と妹さんを比較しているようで、少し不満だったが、今ではそれすらも懐かしい。
「……そ、う……だな」
あまりにもあっさりとした反応に、あれ、と思った。
妹さんの話を出したら、てっきり食いついてくると思っていたのに。昔ほど仲が良くは無いのだろうか。
「妹さん、元気ですか?」
でも、話に出てきたついでとばかりに彼女の様子を窺ってみる。
最後に見た時は元気よく僕に手を振ってくれていた。彼の家に遊びに行く度に、構ってほしかったのか、僕らの間に割り込んではお兄さんに怒られて追い出されていた。何歳離れていたかは覚えていないから年齢は分からないけど、彼女も女の子らしく成長しているだろう。
「ああ……元気、だぞ。離れてるから実際にはどうだか分からないが、たぶん」
少し顔を伏せて、そう話す。
……しまった。これは聞かない方が良かったのかもしれない。
安易な自分の発言に後悔してしまう。
「あ、午後から体育の授業がありましたね、今日は屋内で球技でしたよね」
何となく気まずくなってしまった空気をどうにかしようと思って、関係の無い話題を切り出す。
謝った方が良いのかと思ったが、家庭の問題にはできるだけ触れない方が良いのかもしれない。僕だって、父親の事を聞かれて謝られても、こちらが申し訳ない気分になってしまうだろうから。
「そうだったか? ま、外でやるよりかはマシだな」
どうでもいいような会話を交わしながら、妹さんの事を思い出す。
何があったんだろう。僕の家みたいに、ご両親が離婚したのか? でも苗字は変わっていないようだし、毎日お弁当を持ってきている事から、彼の母親も健在だと想像できる。
別れても苗字を変えない人もいるから、父親が妹さんを連れて家を出て、彼は残って母親と一緒に暮らしている、とか。
色々考えてみるが、僕なんかが余計な推測を立てるのは失礼かもしれない。
目の前で何でもない様に話す姿を見て、いつか向こうが話してくれるのを待とうと思った。




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