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「どうしたんですか?」

数年ぶりの再会だと言うのに、目の前の人物は浮かない表情のまま、僕を正面から見ようとしない。
何か不機嫌にさせるような事をしてしまったのだろうか。とは言っても、僕が彼にしたことなんてまだ腕を掴んだぐらいだ。
それは、怒られるような事では無い、と思う。
この沈黙に耐えられなくて、どうしたのかと聞いてみたが反応は無い。
無視されるような覚えも無いのだが、何か機嫌を損ねてしまうような事をしてしまったのなら謝らなければいけない。
「……ごめんなさい」
ぼそりと謝罪の言葉を口にすると、今までそっぽを向いていた顔が勢い良く僕へと向けられた。
そして眉を寄せて、軽く僕を睨む。
「何で謝るんだ?」
「何でって……」
どうして謝ったのに、また睨まれないといけないんだろう。
「お前は何か俺に謝らないといけない事をしたのか?」
「え、あ……いや、」
「だったら謝る必要は無い。堂々としていろ」
そうは言い終わると、少し前と同じように僕から視線を逸らせた。
堂々としていろと言われても、そんな風にあからさまな態度を取られてしまってはどうすればいいのか分からない。
どうしようも出来なくてうつむく僕を、横目で見ながらはぁと大きなため息をついた。
「なんでそんなにでかくなってるんだよ」
「は?」
その台詞が何を指しているのか分からなくて、聞き返す。
ずっと横を向いていた顔が、再び僕へ向く。
「前はちびだった癖に、俺よりでかくなりやがったのが気に入らない。何でだよ」
ああ、だから機嫌が悪そうだったのか。僕の方が育ってしまったのが気に入らないから。
「何でって……と言うか僕の方が小さかったですか? 同じぐらいだったと思うんですけど」
「いいや、俺の方がでかかったね。絶対に」
「えー……」
納得できなくてさらに反論しようとしたのだが、ゆっくりと顔を見上げられ、ふっと薄く笑いかけられた。
思わず息を呑んでしまい、言葉が出てこない。
「まぁ、お前がまたこっちに戻ってきてくれて普通に嬉しいよ。 ……おかえり」
「……っ、あ、ありがとうございます……」
胸の中に何かが込み上げてきて、思わず涙が溢れそうになってしまった。向こうは何の気なしに発言した一言だろうに、何で……。
ぎゅう、と右手で太ももを抓って、無理矢理意識をそちらに向かせなんとか涙を堪える。僕はもう泣き虫は卒業したんだ。
「なに変な顔しているんだ。ほら、さっさと教室行くぞ」
泣きそうだったのがばれてしまったのかと思ったが、そうでも無いみたいだ。よかった。
彼に促されるままに、付いていく。どうやら既にこの学校に訪れた事があるらしく、迷うことも無く真っ直ぐ目的地へと向かっている。
先を歩く背中を見つめていると、懐かしさと同時に別の感情も沸き立ってきた。どこか息苦しさを伴うその感情を、胸に手を当ててゆっくりと感じてみる。
途中で目の前の人物が少し振り返って僕を見た。ちゃんと付いてきているのか確認したんだろう。無言で向けられる視線に対して、僕は笑顔を返す。
困ったことに、僕は数年前よりずっとずっと彼の事が好きらしい。




あきゅろす。
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