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僕にその気が無かったとは言え、こうなってしまったものは仕方が無いか。
今更否定するのも申し訳ないので、そのままの現状を受け入れる事にする。
彼女に対して心苦しい気持ちもあったのだが、この新しい関係を続けようと思った理由の大部分は興味本位、だった。
抱きしめたら柔らかいのだろうか。そのふっくらとした頬に触れてみたら、どんな感じがするのか。
女の子との『お付き合い』がどういうものなのか、興味があったんだ。

普段から一緒に行動する事が多かったので、二人きりになる時間は結構多い。今まで意識した事も無かったが、これでは関係を誤解されてしまっても仕方無い気がする。でもその誤解も、もう誤解では無くなってしまった訳なんだが。
下校途中にそっと手に触れてみる。逃げられる素振りが無かったので、そのまま自分の手で包み込んでみた。
その手は初めて出会った時のように、暖かくて柔らかい。丁度いつもの分かれ道に差し掛かったあたりで、周囲に人気が無いのを確認してから、腕を引いて抱きしめる。
想像していた通り、その身体は小さくふわりとしていて、まるで小動物のようだ。そしてとても暖かい。そっと抱きしめているだけで、腕の中の存在を大切にしたい気持ちでいっぱいになる。
暫くして顔を真っ赤にした彼女を解放してあげて、その日はそこで分かれた。
それだけのやりとりだったのに、何だか世界が一変したような気がする。僕は早足に自宅に帰った。
家に到着してからもなんだか胸がどきどきして落ち着かなくて、祖母への挨拶もそこそこに僕は自室に篭る。
ベッドに横になりながら、先程の温もりを思い出す。
どんな感じだったか。あの子は小さくて、柔らかくて……そこまで考えてから、何か違和感を感じる。
そうだっただろうか? 確かに暖かかったけど、あんなに柔らかかったか。実際はもっと固くて、手は僕みたいに骨ばっていて。
いや、おかしい。女性がそんなに骨が尖っている訳が無いじゃないか。何を考えているんだろう。



その日の夜、夢を見た。
数年前から繰り返し何度も見る、あの人の記憶だ。最近はあまり彼の夢も見る事が無かったのに、今頃何故。
心なしか少し成長したような姿は、僕の想像でしかない。少し不機嫌そうにこちらを見ながら僕の名前を呼んで、昔のように手を差し伸べてくれる。その手を取って、そのまま引き寄せ柔らかく抱きしめた。その身体は女の子のように小さくて触り心地が良い訳でも無いのに、自然と僕の腕の中に納まる。
肩口に顔を埋めて、耳元に唇を寄せる。小さく名前を呼んだ。そういえばいつも一緒にいたはずなのに、僕からは名前を呼んだ事も無かった気がする。

耳障りな目覚ましの音に目が覚める。寝台の上で上半身だけを起こして、自分の手のひらを見つめた。
薄く汗が滲んでしまっている。
昨夜見た夢の内容を思い出した。いつもは夢の内容なんてほとんど覚えていない癖に、何故か昨夜の映像だけは記憶に残っていた。覚えていない方が、楽だったかもしれない。
「……最悪、だ」
一人でそう呟く。
今更、こんな気持ちに気づいてしまうだなんて。



登校した時、僕に挨拶をしてくれた隣の席の女子の純粋な笑顔が、深々と胸に突き刺さる。
この子には、ちゃんと説明しておかないといけない。
その日の放課後、二人きりになった教室でありのままを伝える。元々勘違いから始まった関係だったのだから、いつかは伝えなければいけない事だったんだ
他に好きな人がいる、と口にすると、昨日の無責任な行動を責められるかと思っていたのだが、目の前の存在は何も言わずに顔を伏せた。
肩を震わせて声を殺しながら涙を流す姿を見ていると、その髪に触れて慰めたい衝動に駆られる。しかし、今そんな事をしてもまた彼女を傷つけるだけだ。
僕はただ、その小さな肩を見つめる事しか出来なかった。





あきゅろす。
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