[携帯モード] [URL送信]




教室に移動して、自分の出席番号が貼られている机に鞄を置く。
廊下側の列で、前から3番目だ。この苗字が原因でだいたい僕は前の方の席が多い。
これからしばらく使用することになる椅子に座ると、隣に見覚えのある女子が腰掛けた。
そちらに視線を向けてみると、向こうも僕をみていたらしく目線が絡む。そして、すぐに顔を逸らされてしまった。
何だろうか、と思った瞬間、違う方向を向いていたはずのその子が立ち上がって、僕の隣へ移動する。そして勢いよく頭を下げたと思ったら、自分の名前を名乗ってきた。
何が起きたのか一瞬理解できず反応に困ってしまったが、自己紹介をしてきてくれたのなら、僕もそれに答えないといけない。
笑顔で名前を名乗って最後によろしくお願いしますと付け足してみると、驚くほど身体を跳ね上がらせて、舌足らずによろしくお願いしますと続けた。
そして緊張でもしていたのか、がちがちに固まってしまった手足を機械のように動かしながら、自分の席に座る。
面白い子だ。



それから、何の因果かその女子と一緒に行動する事が多くなった。
何故か同じクラス委員に任命されてしまい、席も近いから話す機会も多い。さらに自宅の方向まで同じだったため、お互いの時間が合った時なんかはよく一緒に下校した。
どこか頼りなくドジな彼女を見ていると、昔の僕を思い出す。だから、放っておけなかったんだと思う。
そんな僕達の姿は、他の同級生の目には特別な関係に映ったらしい。
お前ら付き合ってるんだろう、と冗談交じりに囃し立てる。
実際には別にそこまで親しい関係でも無いのだが、ここで否定をすると余計に周りが喜ぶ事を僕は知っている。
だから放っておけばいいのだが。
「ち、違います! そんなんじゃありませんっ!」
僕ではないもう一人の方が、顔を赤くして必死に否定する。その反応を見て、僕らをからかっている男子達がさらに勢い付く。
面倒臭いなぁ。相手をしたらそれだけ余計にからかわれるだけなのに。
そう考え、相手にせずに流していた。僕が彼女に対して恋愛感情が無いように、彼女も僕に対してそんな感情を持ちえている訳が無い。そうに決まっている。

だが、そんな僕の考えはあっさりと覆されてしまった。
いつものように僕らを囲んで囃し立てる同級生。テレビでやっているようなニュースには興味を示さないくせに、こういうゴシップにだけは食いつきがいい。
「お前、こいつが好きなんだろう? ほら言ってみろよ」
毎度毎度、よくもまぁ同じ台詞が吐けるものだ。
そのボキャブラリーの少なさに関心しながら、いい加減このやり取りにもうんざりしていた僕は、いつもと違う返答を返してやった。
「そうですね。好きかもしれません」
本当に、冗談を言うように軽い気持ちだった。
だって、僕らの間にはそんな甘ったるい感情なんて、存在しないはずだったから。
だけど僕のその台詞に、隣にいた彼女がこくりと首を小さく縦に振る。周りの男子達がさらに沸き立つ。
その時は何故そんなにも騒ぎ立てるのか意味が分からなかったのだが、後日教室に入った時、黒板に描かれた相合傘を発見して、彼女が小さく首を縦に振った意味を知った。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!