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こんな状態では、新しい友人なんてできる訳が無い。
学校で何かグループ行事をする時だけ親しくする相手はいても、それ以上の付き合いになる人間はいなかった。

僕はとにかく笑って過ごす事にした。そうしていれば、クラスメイトも僕も人当たりの良い人間だと思い、適当に仲良くしてくれるからだ。楽しそうにしていれば、母親も安心する。
他にすることの無い僕はとにかく勉強に集中し、成績もどんどん伸びていく。母親も教師も喜んだ。
裕福な家庭で、成績も良好。いつもにこにこ笑って、クラスメイトにも好かれている。なんて絵に描いたような幸せな子供なんだろうか。

だけど、とても幸福に見えて、其の実とても無機質な生活だった。ただ同じことが繰り返されるだけの。
結局、僕は何年経っても卑屈でいた幼少時代と何も変わっていない。自分は誰かに手を引いてもらわないと、成長もできない間人間なのだ。いつまでも過去の思い出に縋って生きていけると思っているのか。
一人になった時それを自覚し、自嘲気味に口元が歪む。





ただ学校に通っているだけの日々だったのだが、義務教育というものが適用されている為、小学校を卒業すると自動的に中学校へと進級する事になる。
元の同級生と変わらないかと思っていたが、近くにある他の小学校の生徒も同じ中学に入学するらしく、生徒の数は倍になっていた。従って、クラスの数も倍になる。
大勢の生徒達に囲まれながら、校庭に貼り出されたクラス分けの掲示板を眺める。同じクラスになりたい生徒なんて特にいないから、自分がどこに入るかさえ確認しておけばいい。
自分の名前を見つけると、僕はすぐに人ごみの中から離れた。

友人達と固まりながら騒ぐ同級生を、一歩引いた場所で観察する。別に楽しいものでは無いが、つまらなくも無い。
同じクラスだろうが違うクラスだろうが、もう結果は出ている。こんな所で騒いでも、何も変わりはしないのに。
そんな捻くれた事を考えながらも、本心ではこの程度の行事であんなにも楽しそうに笑える同級生達が羨ましいんだ。僕は、あんな風に楽しそうには笑えないから。
一人距離を置いて校庭の隅に立っていたら、突然一人の女子が人だかりから追い出されるように飛び出してきた。乾いた土の上に派手に身を投げ出され、尻餅をつく。どこか擦り剥いてしまったのか、地面に手を付きながらよろよろと立ち上がる。真新しかった制服もすっかり砂だらけだ。今にも泣き出しそうな顔で、自分の制服の砂埃を叩く。
なんとなく見ていられなくて、僕はその子に近づいて手を差し伸べた。
見慣れない子だから、たぶん違う小学校から進級してきたのだろう。彼女は白い頬を微かに染めながら、僕の手を取る。
初めて触れる同い年の女の子の手は、とても柔らかかった。





あきゅろす。
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