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最初の数日は昼前までで学校が終わっていたのだけど、三日目あたりからは昼過ぎまで授業があって、昼食は学校から支給された。
今まではお弁当だったから、自宅外から支給される昼食は始めてだ。僕は初めての経験に胸を躍らせながら、いくつかの食器をトレイに乗せて自分の席に座る。
周りに視線を巡らせて見ると、みんな始めての給食に騒ぎながら喜んでいた。みんなとは特に仲が良い訳でもないし、ほとんど話した事すら無い相手がほとんどなのだが、それでも人が楽しんでいる姿を見るのは悪い気はしない。
そして自分の前に手を合わせて、いただきますをしようとしたのだが。
「な……なんですか?」
何故か、隣の席の彼がガタガタと自分の机を動かしていた。
「一緒に食おう」
「へっ?」
勝手に机の向きを変えてもいいのかな、と思って周りの生徒たちに視線を向けてみると、みんなも好き勝手に移動している。
「……なんだよ」
「いえ、なんでもないです」
自由に移動してもいいのなら、もっと面白い話をしてくれる相手の所に行けばいいのに。何で僕なんだろう。そんな疑問を抱きながら、僕は支給されているスプーンに手を伸ばす。
家族以外の相手とこうしてまともに向き合って食事をするのは始めてだから、妙に緊張する。
「お前さー」
突然話しかけられ、思わず僕は口に入れていたスプーンを噛み締めてしまった。少し歯が痛む。
「どいつが好き?」
「どいつ……?」
そのどいつ、が何を指しているのか分からない。
「日曜の朝やってる、エスパー戦隊だよ。何色が好きなんだ?やっぱ赤?」
「…………」
そういえば、そんな番組もやっていたような気がする。家ではテレビの主導権はほぼ母親にある為、僕は基本的にそういった類の番組は見たことが無い。
口を閉じて、食べかけの給食を眺める。そのまま別の話題を出してくれないかな、なんて都合の良い事を考えてしまったが、彼は律儀にも僕の返事を待ってくれているらしい。
「す、すいません。見たこと、無いので……」
そう言うだけで、僕の目元には涙が溜まってくる。せっかく話しかけてきてくれたのに、返事すら返せない自分が不甲斐なくて、申し訳ない。ここで泣いてもうっとおしがられるだけだって分かっているのに、止まらない。
「いますごい人気あるのに、見たこと無いのか? 珍しい」
「ごめんなさい……」
向けられる言葉がちくちくと僕に突き刺さる。向こうに僕を責めてるつもりは無いのだろうけど、まるで怒られているかのように思ってしまう。
つまらなそうに僕を見ていた彼が、スプーンの先を僕に向けて口を開く。
「じゃあ、うち最初からDVDに録画してあるから、貸してやるよ。母さんもはまってるんだ、面白いから見てみろ」
予想外の発言に、思わず顔を上げる。
「あれはな、ピンクがいいぞ。可愛いしスタイルもいいし。でも母さんと妹はレッドがいいって言うんだ。たしかにあいつはかっこいいけど、やっぱり女の子の方が……」
呆然としたまま、目の前で喋り続ける姿を見つめる。
彼と一緒にいると、何もかもが新鮮すぎて本当にどうしたらいいのか分からない。


「ほら」
次の日、朝顔を合わせた途端いきなり無造作に紙袋を渡された。
何か分からなくて受け取っていいものかと悩んでいたら、ぐい、と僕の胸元に突きつけてきた。仕方なしにそれを受け取る。
「昨日言ってたやつ。帰ったら見てみろ」
「あ、ありがとうございます」
本当に持ってきてくれたのか。でも、僕なんかが借りてしもいいのだろうか。
「いいんですか? これを持って帰っても」
僕に勧めるくらいなら、もっと話の合いそうな他の子に貸してあげた方がいいんじゃないだろうか。それに、なんでこんなに僕に親切にしてくれるのか。僕には分からない。
「いいに決まってるだろ、友達なんだし。返すのはいつでもいい」
「…………」
友達? そうなのだろうか。僕と彼が? 
そんな疑問を感じてしまったものの、その無造作な一言で先ほどまでの胸のもやもやしたものが取れた気がする。もしかしたら、嬉しかったのかもしれない。




あきゅろす。
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