[携帯モード] [URL送信]
 


「それは…………お前、俺に触って欲しいのか……?」
「いえ違います!」
即、否定させてもらった。
すこし顔を伏せ気味に僕を見る彼の表情は、明らかに歪められていてまるで生理的に受けつけない物でも眺めるような視線を僕に向けてくる。
「じゃあ、まさか自分でやってみるから見守っていて下さいね、ってやつか?」
「いや、それもちょっと違いますね……」
どこまで僕は変態なんですか。
「まぁ、見てるだけなら構わないが……見知ったやつに目の前でやられるとちょっと困るんだが……」
「だから違いますってば」
僕はずい、と彼に顔を近づけた。彼が少し驚いて後退しようとするが、丁度ベッドに寄りかかるように座っていたため、後ろに下がるようなスペースも無い。
「僕が、一人で試してみても仕方無いでしょう? 二人で、ですよ」
「……ぉ。おぉ……」
顔を逸らしながらも、無理に僕を押しのけて逃げようとする様子も無い。そんな彼の姿に、これは僕を受け入れてくれようとしているって事かなぁ、なんて少しだけ思い込んでしまった。 
「いや、でも、俺は、無理だ。お前、触りたい、なんて、思わないし」
焦っているのか緊張しているのか、彼の口調が何故かカタコトになっている。そんな姿を至近距離で見つめていたら、思わず頬が緩んでしまった。
しかし、そう何度も言うほど僕に触りたくないのか。少し傷ついてしまう。
でもこれはたぶん、僕のしたい事を薄々理解してしまっているからこその発言……だと思いたい。
「僕があなたに触りたいんです。お願いします」
ゆっくりと、急かさないように言葉をかける。ここまで近づいて拒否されていないし、雰囲気も悪くない。これは、いけるかもしれない。
ちょっと気が大きくなってしまった僕は、彼の首筋に顔を埋めて下から上へ筋に沿うように舐め上げた。
「ひっ……ちょ、ちょちょちょちょっと待て!」
無理に後ろに下がろうとした彼が、背後にあるベッドの上に乗り上げる。僕もそれを追おうとしたのだが。
「待てって言ってんだろ!」
「ぶっ」
焦った彼に強く顔面を叩かれた。頬を叩かれたのではなく、手のひらを顔に押し付けるように。
寝台に乗り上げようとした丁度不安定な体勢の所に、不意打ちを食らってしまったため、僕の身体はころりと後ろにひっくり返る。
「何するんだよ、何しようとしたんだよっ! あ、アホか……!」
息を荒くしながら、僕に舐められた首筋を来ている衣服の襟元でごしごしと何度も拭う。そんなに嫌でしたか。
僕は顔を押さえながら、起き上がった。鼻の頭がつーんとする。ついでに目元もつーんとする。こっちは殴られたのが原因じゃない。
「あ」
手の隙間に、たらりと何かつたうものがあった。顔から手を離してそれを確認してみると、手のひらに赤い液体が付着している。
どうやら叩かれた時に鼻の中の血管が切れてしまったらしい。
僕はまた手で鼻を押さえて血液が床に垂れないように注意しながら、ティッシュの箱を探す。たしかベッドサイドに置いていたのを思い出して、そちらへと視線を向けた。
その時、ベッドの上に乗り上げていた彼と視線が合う。眉を寄せて唇を震わせながら、僕を見ていた。
もしかしたら、自分の行動によって僕に負傷させてしまった事に負い目を感じてしまっているのかもしれない。大したことの無い怪我でも、出血しているだけで随分と感じる罪悪感が違うから。
「この程度なら、大丈夫ですよ」
彼を安心させようとして、この程度なら大したことではないと伝えようとした。だが、僕が話し終わる前に、彼が口を開く。
「おまえ、その鼻血……興奮しすぎだろ」
「は? いや、これはあなたが」
「男を襲おうとして鼻から出血だなんて……お前、どうしようもないな。きもちわるい。どんだけ野郎が好きなんだ」
我が身を守ろうとするかのように、自分で自分の身体を抱きしめる。
「何言ってるんですか、これは」
弁解しようと、僕もベッドの上にあがろうとした。
「近寄るな!」
何故か立ち上がって僕を威嚇してくる。
そこ、僕のベッド。とか、ここは僕の部屋なんですけど……と思ったのだが、黙っておくことにする。
今は彼がこの空間にいてくれるだけで嬉しい。そう考えておこう。
「あの……ティッシュ、取ってもらえますか?」
枕元の棚の上に置いてあったティッシュの箱を掴むと、僕に向かって放り投げてきてくれた。僕はそれを受け取って、さっきまで座っていたのと同じようにベッドに背を凭れながら処置をする。
その間も、彼は僕の後ろで警戒を続けていた。悪いが、僕にはもう何かする気も無い。放っておけば、また戻ってくるだろう。
僕はティッシュの箱を床に置いてから、一回座りなおして、またテレビへと視線を向けた。そろそろ夕方近くになるから、放送している番組の種類も変わってきているはずだ。
他人が寝台の上に乗るのはあまり好ましくは無いが、彼だったら別に構わないか。




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!