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「えっと……それで、何が不思議なんですか?」
「こういった類の本がだよ」
彼の言葉に、思わず首を傾げる。
まぁ、たしかに不思議と言えば不思議だ。登場人物がほぼ同性愛者だなんて、どれくらいの確立ならばこんな事態が起こり得るのか。計算式すら浮かばない。
余程隔離された空間に男性だけを閉じ込めても、恋愛感情なんて生まれるものなのだろうか。
……いや、僕は隔離された空間でもないのに、同性愛手に恋愛感情を抱いてしまったんですけどね。僕の事はこの際棚の上にでも置いておきましょう。
「違う、登場人物がほとんどソッチの人間だってのは突っ込んだらいけない所だ」
「そ、そうですか」
「俺が不思議だと言ったのはだな……」
読んでいた本を閉じて、背表紙を見てから表紙を上にして、僕へと向けた。
「年齢制限が無いだろ、こういう類の本って」
「ああ……そうですね」
「不思議だよなぁ」
そんなことか。
でも、僕は彼の持っている本の内容をまだまともに読んだことが無いから、中身がどの程度のものなのかも分からないし彼の言う『不思議』も理解できない。
「同性愛物だからじゃないですか? ほら、同性同士だと無理矢理性行為に及んでも強制猥褻罪として処理されてしまいますし、少し規制が軽いのでしょう」
「でもな、本格的なのはたまにちゃんとR指定になってるんだぜ。おかしいだろ」
「本格的なの……」
それはどういったものなのだろうか。気になったのだが、聞くのも少し怖い。
しかし僕の囁きは彼の耳に入ってしまっていたらしい。
「今度本屋で教えてやるよ」
「……はぁ」
これは、喜ぶべきなのだろうか。彼にとっては親切心から発した言葉なのだろうけど。
僕自身彼の趣旨に沿った人種なのかもしれないが、個人的にはあまりリアルなものには触れたくないのが正直な気持ちだったりする。別に綺麗な世界を夢見ている訳ではないが、あらためて現物を見ると生々しい現実を目の前に突きつけられてしまい、少し複雑な気分になってしまうだろう。
でも少し見方を変えてみて、彼と一緒に本屋に行くフラグが立ったんだと考えてみる。そうしたら、まだこれは僕にとって喜ぶべき展開だ。
「あ、もしかして……」
何かを気づいたように、口を開く。
「おかず目的に買う人が少ないからか?」
おかず? おかずって……?
言っている言葉の意味が分からなくて、思考を巡らす。
しかし理解した瞬間、ぶほっと息を吐いてしまいそうになった。なんてことを平然と言うんだ、彼は!
「な、な……おかずって、」
「だってそうだろ? 買ってる人はほとんど女性だろうし」
「そ、うかもしれま、せんね」
これでこの問題に結論が出たのか、彼は元の読書に戻った。
僕は終始とりあえず彼に同意する事しか出来なかった。色々と疑問点が沸き立つものの、これ以上あの会話を引っ張りたくは無い。
しかし、おかずって。おかずは無いでしょう。たぶん。どうしたらそんな思考に辿り着くんだ。
「……でも、十分こういうのもえろいと思うんだけどな……男と女じゃ興奮するポイントは違うらしいし、よくわからんな」
ぶつぶつと隣でそんな事を呟く。たぶん僕に話しかけているのだろうけど、返事を返すことができない。
僕自身そっちの話題に耐性が無い訳では無いが、いままで彼と下の話題で盛り上がったことが無いため話しづらい。
それよりも、少し気になった事がある。
「あなたは、このような本を読んで気が高ぶったりするのですか?」
「……は?」
顔を上げて、僕を見る。
そして一言。
「全然」
ああ、そうですか。
あまりにもあっさりとした返答に、がくりと肩が下がる。
いや、ここから変な雰囲気を作ろうとした訳じゃありませんよ。決して。
「でも本当にこんな事して気持ちいいもんなのかって気にはなるけどな」
その言葉を、僕の耳が素早くキャッチする。
僕は身体の向きを変えて、彼へと向き直った。突然の僕の動きに、驚いたらしい彼が目を丸くして僕を見る。
「だ、だったら……試してみればいいと、思いませんか」






あきゅろす。
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