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おやすみ





空気を切る音とともに、無遠慮な侵入者とは思えない笑顔で悟空はいつものように前触れも無くベジータの前に現れた


「あり?」

自室のベッドに腰を下ろして、珍しくゆったりと寛ぎながら読書をしていたベジータは、素っ頓狂な声を上げた悟空をチラリと見たものの、直ぐまた本へ視線を戻した



最初の頃こそ瞬間移動してくる度に悟空を怒鳴りつけていたベジータだが、何度言っても変わらない悟空にすっかり諦めの境地だった

この日もほおっておけば勝手に話し始めるだろうと思っていたベジータの予想どおり、悟空は暫しキョロキョロした後、ベッドに近寄ってきた



「ベジータ♪」
「――なんだ……」
「珍しいなぁ。おめぇの部屋入るのすっげー久し振りだから驚いちまった」
「………」
「おめぇはいっつも重力室にいるからよ」
「――メンテナンスだ」
「ふぅん……」


よほど珍しかったのか、いつもベタベタと体を密着させてくる悟空は、ベッドの背にもたれているベジータの足元辺りに大人しく腰を下ろした



「なぁ、何読んでるんだ?」
「見れば分かるだろう?」

本の背表紙を悟空に向けているベジータは面倒くさそうに答えた

「オラ、そんな字読めねぇよ」
「――この程度もか?貴様、ずっと地球にいるくせに…」
「オラ、サイヤ人だから」

悟空の都合のいい答えに、ベジータは呆れ顔になったが、それ以上は何も言わずに本のページをめくった


悟空もさほど本自体に興味があったわけでも無いのか、別段追求することもなく、両手を後について天井を見上げていた





30分後――

一通り読み終えたベジータは、さすがにいつもと違う悟空に違和感を覚え始めた

悟空が会いに来る時はどんなにベジータが無視しても、何だかんだと騒いで必ず自分の気を引こうとする

それが今日の悟空はどこか落ち着いた様子で、読書をしているベジータに時折目をやり、満足そうに微笑んでいた


「カカロット……」
「ん?なんだ?本終わりか?」
「ああ――」


声をかけたものの、別段迷惑をかけられてもいない相手に『今日は何故静かなんだ』などと言うのも口惜しくて、ベジータはにこやかな悟空から目を逸らし、曖昧に呟いた


「ベジータ?どうかしたんか?」
「………なんでもない」

悟空はベジータの反応に小首をかしげ、顔を覗き込むように近づいてきた。ベジータは悟空の顔がごく近くまで寄ってくると、恥かしさでぶっきらぼうに答えた


「そっか?お、これ、星の本か?」

特に気にした様子もなく、悟空はベジータが脇に避けていた本の開いたページを指した



「ああ。天体望遠鏡で観測した星だ」

悟空は本を取り上げてぱらぱらとめくってみたが、ところどころにある天体写真以外は難しい言葉の羅列なのを見て、肩を竦めた


「おめぇ、これ読めるのか?」
「惑星ベジータの科学はここより進んでいた。凡その内容は理解できる」
「すげぇなぁ……オラは星の写真くれぇしか見る気しねぇぞ」


ベジータと二人きりでいるにも関わらず、やはりいつものような余裕の無い性急さが微塵も感じられない悟空に、ベジータは徐々に不安を覚え始めた


「おい、何をしに来たんだ……」
「何って……」
「さっきから黙ってそこにいるだけだろう。さっさと帰れ」

ベジータは悟空に苛立ちをぶつける矛盾を感じながら、これ以上はいつもと違う悟空を見る不安を抑えられず、乱暴に本を取り上げた


「いつもオラが煩ぇって文句言うくせに」
「だからと言って、いつもやかましい貴様がむやみに静かなのも勘に触る」
「だって、こんなの滅多にねぇから。そりゃ、オラだっていつもみてぇに我慢できなくて、おめぇを……」
「ぐ、具体的に言うなよ!!」


あっけらかんとした悟空の言葉を、ベジータは真っ赤になって制した


「おめぇ、面白ぇなぁ」
「貴様……」
「怒るなよ、説明すっから」
「いいから帰れ!!」
「い、や、だ」


悟空はからかうように言葉を区切り、ベジータの腕を引き寄せた。ベジータは悟空の腕の中でもがいていたが、悟空は構わずしっかり腕に閉じ込めて嬉しそうに話し始めた



「オラが瞬間移動してきた時よ……ほんとはいつもみてぇにおめぇを…」
「具体的に言うなと言ったばかりだろうが!」
「わりぃ、わりぃ。えっと…まぁ、とにかく!あんなにリラックスしてるおめぇを見たの初めてだから嬉しかったんだ」
「―――?」

悟空の穏やかな声で、ベジータは抵抗を止め、訝しげに眉間に皺を寄せた


「ホラ、おめぇ、どっちかというとそういうおっかない顔ばっかしてっから」
「何を……」
「オラはいっつもおめぇを怒らしてばっかだけど――。おめぇの……なんちゅーか、穏やかな顔って言うんか?とにかく、あんなリラックスしているおめぇを邪魔したくなかったんだ」

へへッと笑って少し照れた表情で頭を掻く悟空に、ベジータは軽く舌打ちした


「下らん」
「オラは幸せだったぞ?」
「……当然だ」

そこまで言うと一気に耳まで赤くなったベジータは、悟空の胸で顔を隠した


「貴様といられるなら、どんな時間でも幸せに決まっている」
「ベジータ!?」


悟空は聞けるとは想像したこともなかったベジータの告白に目を丸くして、ベジータの顔を見ようとした。だが、ベジータは悟空にしっかりと腕を回し、隠した顔をけして上げようとはしなかった


「ホントか、ベジータ?」
「一度しか言わん!!」


くぐもった声で怒鳴りつけるベジータの吐息が悟空の胸を熱くする。悟空は隠れた顔の変わりにそっと愛しい人の髪に口付けた


「今日はこうしているだけでいいや……」
「俺はいつでもこれだけで結構だ」
「ハハっ。それはオラが我慢できねぇから、だーめだ」
「――馬鹿な奴だ」
「おめぇのせいでな」


悟空の答えにベジータは幸福を噛み締め、我知らず穏やかに微笑んだ


二人はお互いの温もりで徐々に穏やかな眠気に誘われていき、寄り添ったまま至福の夢に落ちていった





vegetable・bacon様作

『悟空祭』へ参加させていただき、ありがとうございます☆悟チチとカカベジという王道で作品作ってみました。栗東様の素敵な企画への感謝と我らが悟空への愛をこめて……




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