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何故かしょんぼりしている古泉を横目に、俺は買って来た本を紙袋から取り出した。ベッドに腰掛け透明なビニールを破いて、表紙を開く。
そこには異様に二枚目な男子生徒が描かれている。世の中こんな男前ばかりじゃないのにな…などと思いつつ、更にページをめくった。
俺はどちらかと言うと、幼げな絵柄が好みだったりする。だけど、ショタと言う訳では無い。可愛らしい絵柄が好きなだけだ。年齢的にはある程度育っているもののほうが好きで、中高生あたりが丁度良い。なので、話のネタも学園物をよく読む。
そういえば、古泉はどんなものが好きなんだろう。
「古泉、お前はどんなジャンルが好きなんだ?」
元々この話をするために古泉をわざわざ自宅に招いたのだった。
俺の問い掛けに、正座したまま俯いていた古泉がゆっくりと頭を上げる。
「好きなジャンル…?」
「ほら、リーマンとかファンタジーモノとかー…それとも二次創作が好きなタイプか?」
古泉は覇気の無い瞳で俺を見つめたまま、首を傾げた。
「…それは好みの趣向、の事ですか?」
「まぁ、そんな感じだ」
それでは意味合いが幅広くなってしまう気がするが、まぁ間違ってはいない。
「そうですね、あえて言うなら…」
少しだけ俺から視線を外す。心無しか、頬がピンク色に染まっているような気がする。
そんなに自分の好みを話すのが恥ずかしいのか。
「…あなたみたいな人が、好きですね」
「俺?」
なんだそりゃ。意味が分からん。
俺みたいなのが、好き…つまり学生?高校生?学園生活モノ?
なんと。俺と同じじゃないか。
「奇遇だな、俺もそうなんだ」
古泉が勢い良く頭を上げる。ピンク色だった頬は、桃色を通り越してもう真っ赤だ。
そして、ゆっくりと正座から膝立ちになる。
「だ、だったら…!!」
切羽詰った顔をして、こちらに近づいてきた。と思った瞬間、激しいタックルを腹に食らった。
「ぶぅっ!?」
な、な、なんだこいつは!!さっきのあれといい、何がしたいんだ!?
二人して俺のベッドの上に倒れこむ。このままプロレス技でもかけてくるのかと思ったが、違っていた。
俺の両肩の隣に腕を立てて、見下ろしてくる。
「お願いします。僕と同じ気持ちなのでしたら、抵抗しないでください」
抵抗?何をだ。プロレス技か?
だが、古泉の切羽詰った顔を見ていると、違うらしい。じゃあ何なんだ。状況が把握できない。
呆然と古泉を見上げていたら、徐にネクタイを引き抜かれ、シャツのボタンに手をかけられた。
こいつ、また…!
「なにすんだよ!!」
「っ!!」
今度は思い切りその額にチョップを食らわせてやった。頭を押さえたまま、古泉が横に倒れる。
それを押しのけて、起き上がって外されたボタンを直した。
「…痛いです」
俺のベッドに身体を預けたまま、そう呟く。
だろうな。俺の辞書に手加減なんて言葉は無い。
「お前は先程から何をやっているんだ。今度は制服を脱がす練習か?俺は紙の上の行為しか認めないって言ってるだろうが」
何度言ったら分かるんだ。BL漫画読みすぎて頭がおかしくなってしまったんじゃないだろうか。
「紙の上って…あなたこそ何を言っているんですか」
古泉が起き上がる。額に手を当てたまま。
「紙の上でどうやって愛し合うんです。あなたの言っていることこそ、理解できません」
「だから何故お前と俺が愛し合わねばならんのだ。頭がいかれたのか?お前まさかそっちの趣味があるんじゃないだろうな」
俺の台詞に、古泉がぴくんと肩を震わせた。
俯き口元に手を当てて、何かを考える仕草をする。
そんなに悩むようなことを言ったか?
…冗談のつもりで言ったのだが、まさか。
「……お前、本物なのか…?」
「……ええ、まぁ…そうとも言える、かもしれません」
どうやらお互いの話が行き違っていたようですね、と困ったように俺に笑いかけてきた。
その笑顔にぞくりと悪寒が走り、思わず古泉と距離を取る。
ほんもの、ほんものだ。ってことは、つまり…俺、食われかけた?
「あはは…そんなに嫌がらないでくださいよ。傷ついちゃいます」
んなもん知るか!危うく俺が傷物にされる所だったわ!!
冗談じゃない。こんな危険人物をホイホイと自室に招いたりして、明らかにこれは誘ってますフラグじゃないか。
「てっきりあなたも同じ方だと思っていたんですけどね。僕が一人で先走ってしまっていたようで…すいません」
またしても肩を落として、俺に謝る。そんなに悲しそうな顔をされると、こっちがいじめてるみたいじゃないか。
「……いや、別に取り返しのつかない事をしちまった訳じゃないし。俺は、そっちには理解がある方だ」
本でならよく読んでいるから、たぶん。
好きになってしまったものは仕方が無いって言うし、こいつもこのことでそれなりに悩んできたんだろう。俺ぐらい理解を示してやってもいいかもしれない。
…それに。
ちらりと古泉の顔を見る。
リアルBLは正直気持ち悪いと思っていたが、案外古泉ならいけるかもしれない、なんて思ってみたり。
俺を練習台に使おうとしたくらいなんだ。きっと学校で好きな男の一人や二人はいるのだろう。
「で、お前好きな奴いるのか?」
「はい?」
突然の質問に、古泉が俺を見返す。
俺はベッドから降りて、古泉の肩に手を置いた。
「今現在好きな男はいるのか、って聞いてるんだよ」
「…い、一応…身近にいます、が」
身近か。って事は新川さんや多丸さん辺り…か?
そう考えたら、一瞬だが脳内で生々しい光景が再生されてしまった。
いや、無理だ。それは無理。食えん。勘弁してくれ。
それに身近と言っても学校の連中かもしれないだろ。オヤジ萌えだなんて…俺にはハードルが高すぎる。
「それは北高の奴だよな…?」
小さな望みをかけて、聞き返してみる。
「そうですよ」
よし、いける!
心の中で小さくガッツポーズを決めた。
「古泉!」
呼びながら古泉の両肩を掴んで、俺の方を向かせる。
「え、は、はい!何でしょうか…」
ずい、っと顔を近づけてみれば、またぽっと顔を紅潮させた。
好きな奴の事でも思い出しているんだろうか。俺には強引に迫ってきたくせに、純情な奴だなぁ。
「今日から俺がお前の恋路に協力してやろう」
理解のある味方ができるんだ。嬉しいだろう。
しかし、先程までどことなく楽しそうだった古泉の表情は一変して固まってしまった。嬉しすぎて思考がついていかないんだな。
「大丈夫だ、参考資料なら沢山あるし、俺は知識も豊富だ。どんなノンケでもお前に惚れさせてやる」
高々とそう宣言したのだが、古泉は固まったまま全く動かない。
そんなに嬉しいのか。ならば俺も張り切って協力してやらないといけないな。
古泉は味方ができる。俺は生のBLを堪能できる。素晴らしいギブ&テイクじゃないか。
しかし古泉の好きな奴って誰だろう。同じクラスの奴か?谷口あたりは勘弁して頂きたい。国木田…いや、身近だと言っていたから会長…?
古泉が片思いしているだろうリストを脳内で作成していたら、ふと我に返ったらしい古泉と目が合った。顔を歪めてなんとも表現しがたい表情の男に、俺は励ましの意味を込めて笑いかけてやる。
俺のささやかな激励に、古泉は無言で俺のベッドに突っ伏した。










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