[携帯モード] [URL送信]
 




「もっと真剣に考えてくださいよ。あなたしか相談相手はいないんですから」
身を乗りだしてそう言うと、会長は額に手を当てて俯いた。
「なんで俺なんだよ……お前の好きな女のアレルギーなんて俺には関係ねえし」
「そんなこと言わずに。あなた以外に友達と呼べる相手がいないんですよ」
「一体いつお前と友達になったんだよ。機関の定期連絡以外でお前の顔なんて見たくも無い」
この男もなかなか酷なことを言う。
だいだいあなただって学校にまともな友人もいないくせに、よく僕にそんなこと言えますね。
付き合う相手を選べるような裕福な立場じゃないでしょうに。
「俺は一人でも平気だから友達なんていらないんだよ。だいたい素で話せる相手もいない学校内で友達なんて作れるか」
「ふ、負け惜しみにしか聞こえませんね。そんなこと言いながらも本当は寂しかったり…」
会長が無言で僕の顔に煙草を近づけてきた。咄嗟に立ち上がってそれを避ける。
灰がぱらぱらと床に落ちた。
「ちょ、何するんですか!危ないでしょ!」
「……てっきり、根性焼きをして欲しくてここに来たのかと」
「そんな訳無いでしょ!だいたい顔はやめてくださいよ顔は!」
まったく……ため息をつきながら、元の場所に戻る。
「心因性のアレルギーはストレスが原因らしいから、その変な嫌がらせをしばらく自粛したら治るんじゃないか?」
「しばらく自粛、ですか……」
ここ最近ずっと彼の周りをうろつきながら日々を過ごしていたのに、それをしばらく我慢しろだなんて。
肩を落として落ち込んでいたら、唐突に前で座っていた会長が立ち上がった。
吸っていた煙草を空き缶の中に入れて、それを持ったまま窓を全部開きだした。
「どうしました?」
声をかけても返事は返ってこない。どこから取り出したのか消臭剤を部屋中に撒いている。
遠慮なく撒き散らすものだから、ぱらぱらと頭の上に霧状の薬品が降ってきた。僕の頭の上には撒かないで欲しい。
その頭上の白い霧を手で振り払っていたら、突然生徒会室の扉が開いた。
「……あら?いらしたのですね」
「き、喜緑くん、珍しいな、君が放課後以外でここに来るなんて」
ああ、なるほど。
今の会話で彼が焦っていたあんな行動をしていた理由を理解する。
喜緑さんはにっこり笑って僕に会釈をしてくれた。僕も同じ動作を返す。
そして部屋をぐるりと見渡して、机の端に置かれていたノートを手に取った。
「これを取りに来たんですよ」
「そうか」
平常心を装いながら、背中に消臭剤と空き缶を必死に隠している姿は滑稽なものだ。
だから学校で煙草は吸うなと言っていたのに。
「では、わたしはこれで」
また頭を軽く下げて立ち去ろうとしたのだが、床に落ちていたあるものに視線が向かう。
喜緑さんはそこにしゃがみこんで、散らばった白い粉みたいなものを眺めた。
さっき僕に根性焼きをしようとしたときに落ちた灰だ。思わぬものを発見され、ひっ、と隣から息を吸う音が聞こえた。
「何でしょうね、この白い粉」
すっと指先で掬い取って、まじまじと見つめる。
「ほっ…ほこりだろう。この部屋は月に一度ぐらいしか掃除しないから、全く不衛生で困ってしまうな」
そう言いながら睨みつけるように僕を見た。
助け舟をよこせと言いたいのだろう。彼も難儀な人だ。
「そろそろ授業が始まってしまいますし、喜緑さんも早く教室に戻られては?」
「そうですね」
喜緑さんは指についた灰を指先で軽く払うと、すぐに立ち上がって生徒会室から出て行った。はぁ、なんて長いため息をつきながら、会長が力が抜けたように机に寄りかかる。









あきゅろす。
[グループ][ナビ]
[HPリング]
[管理]

無料HPエムペ!