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商店街の書店で、きょろきょろと辺りを見回す。
店員が訝しげな目線をこちらに向けてきた。頼むからそんなに凝視しないでくれ。別に万引きしようとしている訳でも無いんだから。
とは言っても、周辺を必要以上に警戒する俺の姿は、明らかに不審者だろう。
…よし、近くに同じ学校の奴はいないな。
この書店は学校から一番近くに店を構えているため、よくクラスメートや顔見知りの連中と鉢合わせしてしまうのだ。
普段だったら別に構わないのだが、今だけは遠慮したい。
急いで目当ての本を手に取り、カウンターへと向かう。
店員が商品を受け取って、バーコードリーダーをかけた。この時間は、何回経験しても微妙に緊張する。
ありがとうございましたー、なんてアルバイト店員のやる気の無い声を背中に受けながら、俺は店から出た。一歩通路に踏み出すと、目の前を通っている国道に何台もの車が通り過ぎ、俺の短めの前髪が風に煽られる。
よし、買えた…!
白くて透けてしまいそうな紙袋に包まれた本を、ぎゅっと握り締める。
早く帰って、本を読んでしまおう。
少しばかり浮かれた気持ちで、自宅に向けて一歩踏み出そうとした。
「…おわっ」
「あ!」
踵を返した途端、俺の隣に立っていた人物にぶつかってしまった。お互いが後ろに倒れこみ、持っていた荷物が地面に落ちる。
「あ、すいませ……って」
急いで謝りながら顔を上げると、そこには見知った人物が尻餅をついていた。申し訳なさそうな愛想笑いを顔に貼り付けて、俺を見ている。
「…古泉、こんな所で何やってるんだよ」
「あ、いや…」
じっと目を細めて睨んでやると、何故か顔色を変えて俺から目線を逸らした。
「買い物があって、この辺りに寄っていたらあなたの姿を見つけまして」
ちらちらと地面に視線を移しつつ、俺を見る。何なんだよ、一体。
「なにやら一人で楽しそうにされていたので、邪魔しちゃ悪いかなー…と」
一人で、楽しそうに…それはつまり、欲しかったものを手に入れて、浮かれていた俺は路上で一人にやにや笑っていたと言う事か。明らかに、不審者じゃないか。さらにそんな俺を古泉は一歩はなれて見学していた訳で。
そう気付いた途端、かーっと顔が熱くなる。
…次からは、気をつけよう。外では顔の筋肉を引き締めていかねば。
「そ、そういう場合は、さっさと声をかけろ。別に邪魔してもいいから」
「そうですか。じゃあ次からはそうします」
古泉が地面に手をついて立ち上がる。制服についた土を叩き落とすと、まだ地べたに座り込んだままの俺に向かって右手を差し出してきた。その姿が妙に様になっていて、少し腹が立つ。
女の子じゃあるまいしこんな気遣いは俺には必要無い。
古泉の右手を無視して、俺も立ち上がった。
だいたい今は古泉なんかに構っていられない。俺はさっさと帰ってこいつを読みたいんだ。
落とした自分の鞄を拾う。あと買った本は…と。
「…ん」
あの白い紙袋を探そうとしたら、隣に立っている古泉が固まっているのが視界に入った。金でも落ちてたのか?とその視線の先を辿ってみる。
ぶほっ!
…と、変な息を吐いてしまいそうになった。が、喉の辺りでなんとか飲み込む。
古泉の視線の先には、先程俺が購入した本があった。しかも見事に紙袋からはみ出して、表紙もタイトルも丸見え。
そこには妙にきらきらした男子二人が、必要以上にくっついた姿が描かれていた。いわゆる、JUNE本というものである。
やばい、と思った時には既に遅い。買ってすぐ鞄の中にでも入れちまえばよかった。







あきゅろす。
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