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部室で、満面の笑みを浮かべながら彼を見つめる僕。
それと、その前でとても居心地の悪そうな彼。きょろきょろと視線を泳がせながら、忙しない様子で朝比奈さんの入れてくれたお茶を飲み込む。
「どうしたのよ、キョン。そわそわして」
「……な…んでもない」
そう返事を返しながらも、どことなく落ち着きが無い。ついでに声が微かに震えてしまっている。
彼が平常心を装いながら、持っているコップを揺らす。中で波立つお茶を見ながら、ちらちらと僕の様子を伺っては視線をそらした。
彼が、僕を気にしている。この部室に入ってから、ずっと。
嬉しさに思わず口元が緩む。それを頬杖を付いて隠した。
しかし、目敏く見つけてしまった彼が、ぴくりと眉を寄せる。そして意を決したように僕を睨み付け、がたんと椅子を揺らして立ち上がった。
「……こっ…古泉っ!」
「はい。なんですか?」
突然彼が発した大きな声に、涼宮さんと朝比奈さんが驚いて顔を上げる。長門さんだけは平然と本を読んでいた。
そんな彼女らには構わずに、僕だけを睨み付けながら叫ぶ。
「なんでずっと俺ばかり見てんだよ!!」
「んふっ」
息を荒げる彼をさらに挑発するように、嘲笑ってやった。
そう、僕は今日この部室に足を踏み入れてから、ずっと彼を凝視していたのだ。それはもう息遣いから瞬きまで、一瞬の動きも見逃さない程に。
「だって心から愛する人が同じ部屋にいるんですよ。見つめなくてどうするのですか」
彼は心から愛する人、の言葉にびくりと反応をして、周囲の女性陣を横目で伺った。
涼宮さんも朝比奈さんも状況が飲み込めないらしく、ただ驚愕した表情で僕らを眺める。
「だ、だからって俺ばかり見ていてもつまらんだろうがっ!」
「いえ、僕はあなたの姿を眺めているだけで白米茶碗で5杯はいけます」
「んな事どうでもいいんだよ馬鹿野郎!!」
殴り付けるようにそう叫ぶと、ぜえぜえと息を吐きながら椅子の背もたれに身を寄せる。
しばし沈黙が流れた。
「……あ、のさ」
会話の無くなった部室で、最初に声を出したのは涼宮さんだ。彼女にしては珍しく、控え目な声量で続きを口にする。
「クラスの連中が変なこと言ってたんだけど……」
ここで彼女が言わんとしていることが分かってしまったのか、彼が机に顔を伏せて頭を抱えた。
涼宮さんにまで話が伝わっているということは、クラスの中でも結構な頻度で話題に上がっているのだろう。
「古泉君がキョンに言い寄ってるって、本当なの?」
「ええ、本当ですよ」
きっぱりと答えると、前に座る彼が木製の机に頭をぶつけた。
まさか涼宮さん相手にこんな事を言うとは思っていなかったのだろう。
「昨日彼から酷い仕打ちを受けましてね。ちょっとした仕返しですよ」
「ふーん……だったら徹底的にやってやるといいわ。団長のあたしが許可してあげる。悪いのはキョンなんだから!」
「ありがとうございます」
涼宮さんにそう言って貰えると、なんとなく心強い。少し彼女を騙してしまっているような気がしたのだが、僕は嘘は言っていない。ただ要点を掻い摘まんで説明をしただけだ。
「涼宮さんから許可、もらっちゃいました」
嫌味のつもりでわざわざ彼に報告したら、机に額を擦りつけたままうなだれる。
「古泉君」
悩む姿も可愛いなあ、なんて思っていたら、今度は朝比奈さんに声をかけられた。
「なんですか?」
向き直って彼女へ視線を向けると、天使のような笑顔を返してくれる。
「お米ばかりだと栄養が偏っちゃうから、おかずもちゃんと食べた方がいいですよ」
彼女は僕らの話を聞いていなかったのか。それとも素直すぎるのか。
そうですね、と返事を返しながらも、不可解なその発言に、思わず顔が歪んでしまった。












あきゅろす。
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